あれからというもの、僕とアスカが話をするということはなくて。
 アスカの方から話しかけてくることなんてなかったし。
 まぁ、それはその前もそうだったわけで。
 ある意味ではなにも変わってないとも言えるんだけど。
 問題は僕のほう、というか。
 アスカに近づくことが怖くなってしまって。
 やっぱり、あそこまできっぱり断られちゃうと。
 あえてこっちから話しかけてみようなんて気にはなれなかったし。
 ただそれはアスカと話したくないとか、そういうことじゃなくて。
 むしろ前以上に想いは強くなってるのかもしれないけど。
 いや、それだからなのかもしれない。
 あの時の胸の痛みをもう一度味わうのは勘弁して欲しかった。
 だから。
 結局僕は綾波のそばにいる。
 ただそばにいて。
 それで、甘えてる。
 何をするというわけでもなくて。
 何をしてもらうわけでもなくて。
 でも僕は、それで心を落ちつかせてる。
 現金な話だよなって、そう思う自分が何処かにいるけれど。
 それでも僕はこの穏やかな場所を手放せなかった。

 さらに何日かたって。
 前と同じように第七使徒がやってきた。
 作戦とも前と同じ水際での迎撃。
 で僕とアスカで出撃するわけだけど。
 こいつは普通にやっても倒せない。
 前はユニゾンの訓練をしてやっと勝てた。
 でも今回は多分無理だ。
 今のアスカとユニゾンなんて。
 僕はともかく、アスカの方が合わせてはくれないだろう。
 なら僕のほうでなんとアスカに追いつくしかない。
 完全に合わせるのは無理としても。
 コアを叩く時だけ。
 その時だけでも一致させれば何とかなるかもしれない。
 なんか前よりも状況が悪くなってる気がするけど。
 それでも・・・やるしかないのか。
 できなければそれで終わり。
 まぁ、とりあえずここでやらなきゃいけないわけじゃないから少しは気が楽か。
 けど、戦闘の前にそんなことを考えられる余裕が。
 かえって恨めしくて。
 なにも考えずにいた前の方がかえって楽なような。
 そんな気さえした。

 そうこうしてるうちに発進する時間になって。
「サード、アタシが先に出るから援護頼むわ。」
 って音声だけの通信が入って。
「わかった。」
 僕の方もただそれだけ答えた。
 そうしたら一瞬沈黙があって。
 でも次の瞬間にはソニックグレイブを持って駆け出してた。
 そして、あっさりと使徒を両断して。
 で、前みたいに調子に乗るのかと思ったら。
 軽く後ろに下がって武器を構えなおして。
「・・・アスカ?」
 って不思議そうな声のミサトさんの通信が入ったと同時に。
 分裂した使徒が襲いかかってきて。
 でも態勢を整えてたアスカはなんとかそれをさばききって。
 そのままニ対一で戦い始めてしまった。
 僕はその光景に少し呆然としてしまっていて。
 まさかこうなるとは思わなかった。
 アスカがやられるだろうから、なんとか上手く退却しようってそんなことを考えていたから。
 だけどアスカは。
 負けるとかそういうことを考えてない感じで。
 ただ全力で戦ってた。
 それを見てたらぼーっとしてた自分が情けなくて。
 プログナイフを抜いてアスカの援護に向かったら。
「サード、片方よろしく。」
 ってそっけない言葉があるだけで。
 アスカはこっちなんてほとんど意識してない感じだった。
 でもそれがなんだか自然で。
 僕達は背中合わせになるようにして戦ってたんだけど。
「・・・攻撃が効かない。」
 思わずつぶやいてた。
 いくらコアを叩いても、すぐに回復してしまう。
 やっぱり同時にやらないとダメなのか・・・
 かといって僕がここでそう言っても変に思われるだけかもしれないし。
 ミサトさんからの指示もない。
 あっちはあっちで混乱してるみたいだ。
 子のままじゃまずいかもなって思ったとき。
「そっちも同じなわけね?」
 あいかわらず必要最小限の事しか言わないな。
「まあね。」
「同時にコアを攻撃してみる?」
「・・・え?」
 本気で驚いた。
 アスカがそのことを思いついたことに。
「こいつらお互いに補い合ってるんじゃないかって思うのよ。だから・・・」
「それができないようにすればいいって?」
「そういうこと。」
 少し感心したような口調。
「けど・・・どうやってタイミングを合わせるのさ?」
 やれって言われてすぐに出来るような事じゃない。
 でも。
「それくらいアタシの方で合わせてあげるわよ。」
 アスカの自信たっぷりな言葉が。
 奇妙に信じられる気がして。
「わかった。」
 僕はそう答えていた。
 そして。
 アスカは言葉どおり、完璧に僕の攻撃に合わせて見せた。
 その瞬間に感じた一体感はひどく懐かしいもので。
 僕の胸をまた痛くさせた。


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