使徒戦から数日たったある日のこと。
 相変わらず綾波だけ残されて、訓練だか実験だかをやることになったらしく。
 終わるのは夜遅くなるっていうんで。
 アスカに会わないうちにさっさと帰ろうと思ったんだけど。
 更衣室から出たら待ち伏せしてたんだよね、アスカが。
 さすがに驚いてさ。
 何しろ、最近よく話すとはいってもアスカが僕に会いに来るって事はなかったから。
 たまたま会ったときには話し掛けてくるっていうくらいだったんだよね。
 だから、そういう機会を避ければあまり会話せずにすんだわけなんだけれど。
 まぁ、会わないようにするのはそんなにうまくいかなかったんだけどさ。
 それはともかく。
 どうしようかなぁって思って何もできずにいたら。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
 ってアスカのほうから言ってきて。
「聞きたいこと?」
 ・・・まさか僕のことがばれたのか?
 一瞬思ったのはそんなこと。
 でも、次のアスカの一言でそれはなさそうだってわかった。
「そう。ま、そんなにたいしたことじゃないんだけどね。」
 そう言うアスカの口調が結構軽いものだったから。
「いいけど?」
 だから僕も軽く答えて。
「なら場所を変えましょ、立ち話ってのもなんだしね。」

 で、つれてこられた場所はネルフの休憩室で。
 あんまり落ち着いて話ができる場所でもない気がするんだけどな。
 まぁ、ほかに場所がないのも事実なんだけどさ。
 今はそんなに人もいないし。
「で、聞きたいことって?」
 向かい合わせで座ってからそう聞いてみる。
 すると、アスカは軽く視線を上に上げ、軽く考えるそぶりを見せてからこういった。
「んー、つまり、前の使徒のときのアンタの態度っていうか・・・なんであんなに落ち着いてたのかって。」
「・・・どういうこと?」
「いや、アンタってもうちょっとやる気があったように見えるっていうか・・・」
 なんか要領を得ないなぁ。
 大体なんでそんなことが気になるんだ?
「もともとそんなにやる気があったわけじゃないと思うけど?」
 どうしてそんなふうに見えたんだろう。
 むしろ無気力だったくらいだよな。
 それは今もほとんど変わってないんだけどさ。
「でも、第八使徒のときはアタシを助けてくれたし・・・エヴァに乗ってることだって。」
 それは、それ以外に道がないだけなんだよ。
 本当にそれだけで。
 アスカはきっと勘違いしてるんだよ。
 僕は・・・そんなマシな人間じゃないんだ。
 アスカの嫌いだった「バカシンジ」のままなんだよ。
「なのに・・・そう、あきらめがよすぎたのよ」
 あきらめ、か。
 あんなことがあったらやる気だの、前向きな姿勢なんていうのはあらかた消えてなくなると思うんだけどな。
 それでも今こうしてるっていうのは、単に綾波とアスカがいるからなんだろう。
 別に何かがしたかったわけじゃない。
 戻ってきたからやり直せる、だなんて思えない。
 そんなに自分に自信は持てない。
 ただ、ほうって置けない。
 たとえそれが僕の知らない二人でも、ってそう思ってるだけ。
 そして、アスカが「アスカ」ならなおさらだ。
「今から考えればアンタの考えが間違ってなかったってのはわかるわ。」
 そこでいったん口を閉じて。
「でも、なんであの状況で何もしないでいられるわけ?」
「自分には何もできないってわかってるからさ。」
「え?」
「僕はただの中学生だしね?」
 エヴァにシンクロできるっていうだけの、ね。
 これはアスカの神経を逆なでしそうだから言わなかったけど。
「・・・まぁ、それはそうなのかもね。」
 だからアスカがこういったときはさすがに驚いた。
「チルドレンだからっていうだけじゃ何にもできないもんね。」
 思わずまじまじとアスカの顔を見てしまう。
 アスカはチルドレンであることに異常なプライドを持っていたから。
「な、なによ。」
「いや、別に・・・」
「そりゃあね、選ばれたチルドレン、とかなんとかエヴァに乗れることがすごいことみたいに言われてるけど。でもそれって裏を返せばエヴァがすごいってだけのことでしょ。」
「だろうね。」
 その、乗れるって部分に価値を見出す人もいると思うんだけどさ。
 前のアスカみたいにね。
「エヴァに乗れなきゃ何にもできないのよねぇ・・・」
 そう、しみじみというアスカに。
 思わず見とれた自分が。
 みっともないような情けないような、そんな気分だった。


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