「そーいえば、アンタ手ぶらだけどいいの?」
「何が?」
別に困るようなこともないと思うけど。
「端末よ。ないとマズイでしょ?」
あぁ、そういうことか。
「大丈夫だよ、置きっぱなしにしてるから。」
「って家ではどうしてるわけ?」
「別に?何もしてないけど。」
勉強する気なんてないからね。
宿題とかも免除されてるようなものだし。
正直なところ、学校なんて行かなくてもいいって思ってる。
後々問題が出てくるのかもしれないけどさ。
将来なんてあるかどうかも分からないわけで。
あの世界で、学校で教えてもらったことなんかが役に立つとも思えないよな。
「少し意外だけど、納得もするわね。」
「どういうことさ?」
「アンタってマジメなほうかと思ってたから。」
真面目?
僕が?
笑える話だよね。
前の僕ならそう見えたのかもしれなかったけどさ。
言われたことに逆らうようなことはしなかったからね。
いや、それは今でも変わらないのかな?
前は嫌われることが怖かったからで。
今は波風立てるのが面倒って理由だけれど。
ま、どうでもいいか。
なんて話をしてるうちに、学校に着いたんだけど。
玄関で靴を履き替えてるところにトウジとケンスケがやってきて。
「センセ、一体何やったんや?」
ってかなりあせった様子で聞いてきた。
「いきなりなんだよ?」
「まぁ、教室に入れば分かるんだけどな。」
眼鏡を押し上げながら言うケンスケ。
「先に知っといたほうがいいだろうと思って、来てやったんだぜ?」
「さっぱり分からないよ。」
何が言いたいんだ?
「聞きたいことはいろいろあるんやけどな。」
チラッとアスカのほうを見ながら。
「綾波に何したのか、それだけ教えてくれんか?」
「はぁ?」
「何とぼけてるんだよ。」
「ちょっと待ってよ。綾波がどうしたのさ?」
「・・・って。」
トウジたちは顔を見合わせて。
「何や、ホントに心当たりなさそうやで?」
「てっきりシンジがらみだと思ったんだけどな。」
二人でひそひそと話してる。
「ちょっとファーストになんかしたわけ?」
一方でアスカが小声でささやいてくる。
「なんかって何もできるわけないだろ?」
ずっとアスカと一緒にいたんだから。
「それもそうよね・・・」
その様子を見たトウジたちは。
「ちょぉ、こっち来い。」
って言いながら僕を引っ張っていった。
「なぁ、シンジ。正直に言って欲しいんだけどさ。」
「だから、一体何が・・・」
「綾波から惣流に乗りかえたのか?」
一瞬頭が真っ白になった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。どういうことだよ、それ?」
「いや、それならつじつまは合うんだよ。」
「つじつまって何さ?そもそも綾波がどうしたのかって聞いてないんだけど。」
「どうもしとらん。」
あっさりと言うトウジ。
「・・・へ?」
「表面上は、だけどな。」
「どういうこと?」
「別にいつもと違うことをした訳やない。相変わらず何も言わんと教室に入ってきて、席で本を読んどるだけや。」
「・・・それが?」
「むちゃくちゃ怖いんだよ。」
「そや、下手に話し掛けたら取って食われそうな気ぃしたで。」
「それは・・・怒ってるって事?」
「そうなんだろうな、多分。俺たちもあんな綾波を見たのは初めてだから何ともいえないけど。」
「それで何にしてもセンセがらみやろと思うてな。」
「窓からお前たちを見かけたから慌てて来たって訳さ。」
まぉ、それはそうなのかもしれないけどさ。
「けど、驚いたで。まさか惣流と一緒に学校来るなんてな。」
「一体何があったんだよ?」
何って・・・言える訳ないじゃないか。
アスカの所に泊めてもらったなんて。
「ちょっとこみいった事情があってさ。」
とりあえずそう言って。
「それより、綾波と話をしてみるよ。」
「頼むよ。なんか猛獣の檻に入れられたほうがまだマシって雰囲気になってるからな。」
妙に疲れた口調でそんなことを言う。
なんか、本格的にまずい状況になってるみたいだな。
それから、みんなで教室に向かったんだけど。
教室の入り口には他のクラスの生徒が中をうかがってて。
僕を見ると好奇の視線を向けてきて。
そして、隣に居るアスカを見て怪訝そうにしてる。
でも今はそんなことにかまってられなくて。
教室の中に入ると。
そこはひどく静かで張り詰めていた。
何かが起こったらそれだけで均衡が崩れてしまいそうな。
そんな空間。
で、その中心は綾波だった。
ただ本を読んでいるだけだけなのに。
ひどく冷たい気配が流れていて。
・・・確かに、これは怖いかも。
少し、そばに近づくのをためらったりしたんだけど。
クラスのみんなが僕に気づいて。
その気配を感じたのか、綾波が顔を上げてこちらのほうに視線を向けた。
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