「にしても。それ、おいしいわけ?」
綾波の作ってくれたお弁当を黙々と食べる僕を見て。
少しあきれた顔をしながらそんなことを言ってくる。
「・・・味はね。」
実際のところ、綾波の料理の腕はかなり上達しているんだけど。
それをおいしく食べられる気分じゃないんだよね。
おまけに僕の好きなものばかりがそろえてあるところにいろいろと来るものがあったり。
かといって他のものを食べようって気もしないあたり、馬鹿だよなって思うけれど。
アスカもそう思ったんだろうな。
「ふぅん、ま、いいけどね。」
ますます呆れ顔になった。
「それより、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「なに?」
「いや、宿舎の申請ってどうやるのか知ってる?」
「知ってるけど・・・アイツのとこから出るの?」
意外そうな顔で問い返してくる。
「いろいろごたついたからね。」
今、綾波と一緒に暮らすっていうのは無理だろうから。
少なくとも、僕にとっては。
「それに朝に惣流さんが言ってたことにも考えさせられたし。」
綾波は僕のことをなんだと思ってるのか、とか。
父さんと仲良くやってるならそれでいいだろうに、とか。
「そういうことなら一緒にネルフに行ってあげるわよ。」
「いや、別にそこまでしてもらわなくても。」
それに、坂を転がり落ちるようにアスカと仲が良くなってる気がしてこわいんだよね。
どこかで歯止めが必要だよなぁとか。
「アタシもネルフに行く用事があるのよ。ま、そのついでってとこ。」
「用事って?」
「ちょっとリツコと会う約束してるから。」
「リツコさんに?」
・・・なんでまた。
「エヴァの武装強化とか、ATフィールドについてとか・・・話すことは山ほどあるわ。」
そういえば、第十使徒戦の時にミサトさんがそんなこと言ってたっけ。
「そんなことまでやってるんだ。」
「できることはしときたいのよ。エヴァの武装って地上戦用にかたよってるから、上空にいる使徒にはどうしようもないし・・・」
確かにね。
「それに、ATフィールドに関してはどういうものだかさえよく分かってないって事か。」
「そーいうこと。」
相変わらず、妙にがんばってるよな、アスカは。
あの世界を経験したのに、どうしてこんなに前向きなんだろう。
「そーいえばさぁ。」
ネルフに行く途中、思い出したようにアスカが口を開いた。
「宿舎の申請してもすぐには用意してもらえない気がしたんだけど。」
「へ?」
「だって、アタシがこっちに来たときってホテルにほうりこまれてたのよ?」
「そうだったんだ?」
「まぁ、ミサトに引き取られたから一週間くらいですんだけど。」
「・・・それじゃ。」
「まともに申請したら何日かかるか知れたもんじゃないわね。」
「でも、僕がこっちに来たときって住むところが用意されてたみたいだったんだけど。」
ミサトさんに引っ張られなければそこで一人暮らししてたんだろうし。
「アンタがこっちに来た頃はまだ余裕があったって事なんじゃない?」
「っていうと?」
「まだ使徒は一体しか来てなかったわけだし。その後の使徒戦で相当被害出たわけじゃない?おかげでアタシのときは飛び込みで用意できるような宿舎がなくなっちゃたんじゃないかって。」
「それって、ずいぶんいいかげんな話なんじゃ・・・」
「ネルフって事務処理に関してはずさんもいいとこって組織だと思うけど?そもそも、アンタの立場にしてからが適当そのものって感じじゃない。」
「それは、そうなんだけど。」
「どうしてもやらないといけない事はやるけど、それ以上はあんまりしてくれないのよね。」
まぁ、アスカの言うことには反論の余地もない気がするんだけれど。
そんなことより。
「宿舎がもらえるまでどうしたらいいんだろう・・・」
「アタシみたいになんかのホテルを用意してもらうか・・・どうしようもなければその間はうちに来てもいいけど。」
「そう言ってもらえるのはありがたいんだけどさ。」
それだけは避けたい。
「遠慮すること無いわよ?家事をやってもらえるんならアタシも楽になるし。」
遠慮というか。
「これ以上ごたごたさせるのも、ちょっとね。」
綾波のこととか、アスカの追っかけのこととかね。
すでに相当こじれてる気もするけどさ。
だからってさらに悪化させる必要も無い。
「それに、もしかしたらすぐにもらえるかもしれないし。そうならなかったらネルフの中に仮眠室とかあった気がするからそこを使うよ。」
ずっとって言うならともかく、数日くらいなら何とかなるだろうし。
「なら、それはそれでいいとして。もうひとつあるんだけど。」
「他にもあるの?」
「生活費はどうすんの?ネルフから給料もらってるわけじゃないんでしょ?」
「・・・あ。」
今まで最低限必要なお金については気にしなくても良かったし。
そんなに物を買うことも無かったから。
すっかり忘れてたけど。
確かに、お金の問題はどうしようもないなぁ・・・
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