「悪いね、こんな時間に呼び出して。」
 ここは近くの公園。
 他人に知られたくない話をする場所って言ってこういうとこしか思い浮かばないのもあれだよな。
「それは別にいいんだけど、相談って?」
「あ、うん・・・加持さんの事なんだけど。」
「加持さん?加持さんがどうかしたの?」
「アスカは、知ってたっけ?加持さんが・・・死んじゃうって事。」
 それを聞いたアスカは表情を曇らせた。
「知ってるけど、ってアンタが教えてくれたんじゃない。」
 へ?
「そうだっけ?」
「なんかでケンカして、加持さんならアタシの事分かってくれるのに、みたいな事言って、そうしたらアンタが加持さんはもういないんだって言ったんじゃない。」
 ・・・そんな事もあったような気がする。
 というか、あの頃のケンカなんて細かく覚えてないもんなぁ。
 その時にどんな事を言ったかなんてなおさらだし。
「と、ともかく。それで、加持さんの事なんとかできないかなって思ったんだけど、加持さんの事ってほとんど知らないから・・・」
「アタシなら知ってるんじゃないかって?」
「うん。」
「んー、悪いけどアタシだってそんなに詳しいわけじゃないわよ?」
「え、でも・・・」
「そりゃあ、ドイツではボディーガード件お目付け役って感じだったから一緒に行動する事も多かったけど。アタシは訓練とか勉強で忙しかったから。」
「そうなんだ・・・」
「まぁ、それでもなんか危険な事に首を突っ込んでるらしいっていうのはわかるし。アタシにしたって加持さんに死んで欲しいわけじゃないから。それなりにカマをかけてはみたんだけどね。」
 そこでため息を吐く。
「結局、加持さん自身が覚悟しちゃってる事みたいだから。」
 アタシじゃどうしようもないのよねぇ、って。
 案外さらっとそんなことを言った。
「ん、なによ?」
 それが顔に出たのか、アスカが怪訝そうに聞いてきた。
「いや、なんかアスカらしくないっていうか・・・」
「どういうことよ?」
「あっさり諦めちゃってるんだなぁって。」
 前向きなアスカからすると意外だよなって。
「できる事とできない事って確かにあるし・・・何もかもが思い通りになるなんて妄想持ってないわよ、いまさら。」
「アスカ・・・」
「今いろいろやってるのだって、そうよ。単にあんな世界はごめんだってだけ。まぁ、できる事なら努力するけど。」
「そう・・・なんだ。」
「加持さんにとってアタシなんてただの子供だもん。何言ったって動かせるとは思わないわよ。」
「確かにそうかもしれないけど・・・」
 だからってほっとけるかっていうとまた別の話で。
「別にアンタまで諦める事はないんじゃない?」
 当たり前のようにそんな事を言う。
「え?」
「アタシは無理だと思ったら割り切っちゃうけど、アンタはそうじゃないんでしょ?」
「・・・まぁね。」
 単にウジウジ悩むだけとも言えるけど。
「割り切れなかったらとことんまで頑張ってみたら?・・・ちょっと無責任に聞こえるかもしれないけど。」
「簡単に言うんだね・・・」
 けど、アスカの言う通りかもしれない。
 考えるだけで何もできないよりは。
「アンタの場合、たまには何も考えずに突っ走ってみるのもありじゃない?やりたい事は分かってるんだろうし。」
 ・・・やりたい事?
「僕は・・・ただ、周りの人に何かをしたいって、それだけで・・・」
「それでいいんじゃないの?」
 あっけらかんと問い返される。
「アタシなんか自分の事しか考えてないわよ。それに比べたらずっと立派だと思うけど。」
「そう、かな。」
「ったく、手を伸ばしてそれで人が助けられるんなら手を伸ばすって言ってたのはどこの誰よ。」
「それは・・・・・・そうだね。」
 いまさら悩むような事でもなかったな。
 僕にしかできない、僕にならできる事があるはずだから。
 後悔だけはしないように。
 加持さんの教えてくれたことだっけ。


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