「命令違反および初号機の私的占有。何か言いたい事はあるか?」
 初号機から降りるとすぐに黒服が寄ってきて。
 それでこうしてあの人の前にいるわけなんだけれど。
 そう言えば、面と向かって話すのってお墓参りのとき以来なのかな?
 まぁ、会いたいわけでも話がしたいわけでもないからいいんだけどさ。
 わざわざ手錠まで付けさせるってあたりがアレだよねぇ・・・
「別に言いたい事もないけど・・・」
 何もかもいまさらって感じだしね。
「でも、初号機パイロットをやめるつもりもないよ。」
 やらなきゃいけないこともあるからね。
「ここにはもうお前の居場所はない。」
 自分の言う事をきかなくなったらすぐにこれだもんな。
 まぁ、そういう人だって分かってきてはいるけど。
「そうかな?」
「どういうことだ?」
「今の初号機を動かせるのは僕だけだろうと思うけどな。」
 そうそう何度もダミープラグでごまかせるっていうのは間違いなんだよ?
「・・・何を知っている?」
 視線が鋭くなる。
 昔はこれが怖かったんだよね。
 でも、今は。
「別に?」
 あっさりとそう言うと、あの人はしばらく考え込んで。
 結局のところ。
 期限未定で独房に放り込まれる事になった。

 独房って何もないから退屈なんだよね。
 仕方ないので、戦闘前に綾波が言ってた事を考えようとしたら。
「ヘロォ、って相変わらずシケタ顔してるわね。」
 随分と気軽な調子でアスカが入ってきた。
「こんなとこに入れられたら当然だろ?」
「ま、それもそうなんだけど・・・なんであんなことしたわけ?」
「あの時も言ったろ?黙ってられなかったって。」
「だからって・・・チルドレンから降ろされたらこの先どうするつもりなのよ。」
 確かに考えなしだったとは思うんだけど。
「何もしないでいるなんて無理だったんだよ。」
「・・・」
「前は何もできなくて、それでひどく後悔したからさ。」
 いや、今でもその後悔は残ってるんだけど。
「今度は何とかしてみようって・・・結局、何もできなかったようなものだけどさ。」
「・・・ったく。」
 アスカは困ったような表情を浮かべて頭を軽く抑えた。
「ま、助けに来てくれたっていうのは嬉しかったんだけど・・・」
「え?」
「ま、まぁ、それはそれとして。」
 慌てたように話を変えてくるアスカ。
「ファーストの事なんだけど・・・」
「アスカも気になってたんだ?」
「ああいう思わせぶりな事言われちゃうと・・・」
「綾波が僕たちと『同じ』かもしれないって?」
「そう考えるとアイツの行動が変だったのも納得できるわよね?」
「まあね。」
 僕を拾ってくれたのも、なんとなく先の事が分かるようなそぶりを見せてたのも。
「あんまり嬉しくなさそうね。」
 意外そうな顔をする。
「もし、そうならアイツはアタシ達の知ってるファーストってことでしょ?」
 そんなに単純な話じゃないんだよね。
 綾波はあの時に死んでるんだから。
 だから、もし綾波が僕たちと『同じ』だとしても、自分の事を『三人目』だって言った、あの綾波なわけで。
 あれからずっと避け続けていたから何とも言えないんだけど。
 正直、あの綾波は別人のような気がしてる。
 どこと無く冷たい感じがするんだよね。
 ・・・あれ?
 そうすると今の綾波になんとなく懐かしさを感じるのは何でなんだ?
 それにサードインパクトのときに会った綾波の事とか・・・
 なんか混乱してきたな。
 とにかく。
 これはアスカには言えない事なわけで。
「綾波が僕たちの事を知ってるのかとか、綾波の目的が何かっていうのが分からないからね。」
 とりあえずそうやってごまかしてみた。
 まぁ、そこら辺が気になってるのも事実なんだけど。
「あの時の口振りだとアタシ達の事は知らなさそうだったけど?」
「どうだろう?僕にしてもアスカにしてもいろいろ前と違う事やってるからね。」
 そこから気付くっていうのは十分ありうると思うし。
 とはいえ、僕達の事を知ってるなんて思いたくもないし。
「もっとも、綾波がそうだって決まったわけでもないんだけど。」
「なんかそうじゃない方がよさそうな口調ね?」
「どっちかって言えばね。」
「なんでまた・・・あぁ、前にそんな話したっけ。」
 納得したようにうなずく。
「そういうこと。」
「でもまぁ、そこははっきりさせとかないと話のしようも無いわよね。」
「・・・そうだね。」
 後は綾波が何を考えてるのか。
 まぁ、あの人に協力してってあたりなんだろうけど。
 そうなると僕達とぶつかるような気がするんだよな。
 その時僕はどうするんだろう?


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