シンジレイの事情
第12話
なんで綾波さんがこんなところにいるんだ?
最初に思ったのはそんなことだった。
・・・って、もしかして今までのを全部見られてたってこと?
まずいなぁ・・・
とか思ってると、綾波さんが
「・・・あは、あははは」
と乾いた笑い声を立てた。
綾波さんも気まずいんだろうなぁ。
でもそれがわかったんでなんとなく落ちついた。
「ずっと見てたの?」
「いや、その、最初は見るつもりはなかったんだけど。なんというか、立ち去るタイミングがつかめなくって・・・ごめんね」
じゃあ、僕達のほうが綾波さんがいたところに来ちゃったって事か。
それなら仕方ないよなぁ。
「別にいいけどね。見られて困るわけでもなし。まあ見られて楽しいものでもないけどさ。」
あの子がいたらしゃれにならなかったと思うけどね。
そんなことを考えて軽くため息をつくと、そのしぐさを誤解したのか綾波さんはさらに謝ってくれた。
「ほんとにごめんね。ああいうのって見るのはじめてなもんで。つい。」
「だからいいってば。でも、綾波さんなら告白されたことくらいあるんじゃないの?」
「え、あるけどぉ。そーゆーときって状況を楽しむ余裕はないし。それに断り方にも気を遣わないといけないし。」
綾波さんならそういう状況でも楽しんでそうな気もするけど。
「確かに。下手な断り方はできないよね。」
「その割にはさっきはあっさりだったよねえ?」
「ああいうしかなかったから。別にあの子のことが嫌いなわけじゃないんだし。」
でも興味は持てないんだよな、正直言って。
どうでもいいってさえ思ってる。
綾波さんと話してる話題でしかなくなってるんだよな。
われながらヒドイとも思うけど。
「そういえば・・・あの子に『綾波さんと付き合ってるんですか?』って聞かれたときなんで否定しなかったの?」
いきなりそんなことを聞いてきた。
「迷惑だった?」
「迷惑っていうか・・・」
そこでちょっとくちごもる。
「はたから見ればそう見えるのかなって気もしてたし。それに綾波さんなら上手くごまかしてくれそうだしね。」
なんて、笑顔を作りながら言い訳を並べてみる。
ホントの事を言いたい気もするけどさ。
それで今の関係が壊れちゃうのは嫌だしなぁ。
そしたら。
「碇君っていつもそ−ゆーふうに笑うんだね。」
ってつぶやくように綾波さんが言った。
◇ ◇ ◇
そう言うと、碇君は意外そうな顔をしてわたしの方を見た。
「本当は楽しくも何ともないのにただ笑ってるだけ、そんな笑い方してる。」
「・・・・・・」
「周りのことなんてどうでもよくて、ただにこにこしてるだけ。」
わたしなんでこんなこと言ってるんだろう。
「さっきだって『ごめん。』って言って後は笑ってるだけ。波風を立てないようにってそのことしか考えてないみたい。」
わけわかんないけど、でもとまらなかった。
「まじめにつきあってって言われたんだから、もっとまじめに答えてあげてよ。」
「ちょっと待ってよ。変だよ、綾波さん。なんでそん・・」
「どうせわたしは変だもん!おしとやかでもないし物静かでもないもん!碇君の理想とは反対だもん!」
目のあたりがあつい。涙があふれてきた。
「綾波さ・・」
「だからって演技されるのはやなんだもん!!」
そっか。
わたし、碇君に本音で話してほしかったんだ。
ただ、それだけだったんだ・・・
「中途半端にやさしくされるくらいならキライっていわれた方がましだもん!!」
そういってわたしは駆け出した。
碇君のそばから離れたかったから。
でも碇君は追いかけてきた。
そして手をつかまれて、次の瞬間にはうしろから抱きしめられてた。
「離してよ!わたしのことなんてどうでもいいんでしょ!」
もがきながらそういうと、碇君はわたしを抱きしめてる手に力を込めてこういった。
「違う!違うんだ・・・」
その声がひどくつらそうで、わたしは思わずもがくのをやめた。
「綾波のことをどうでもいいなんて思ってない。僕は・・・僕は綾波のことが好きなんだから・・・・」
うそ。
「確かに僕は無感動な人間だった。綾波の言ったことはほとんど当たってるよ。何かをほしいって思ったこともないし、何かに執着することもなかった。
「でも綾波に会ってからは違ったんだ。綾波のことを知りたいって思った。綾波と話ができたら楽しいだろうって思ったんだ。
「そして、自分が変われるんじゃないかって思った。」
碇君のこんな声を聞いたのははじめてだった。
それに碇君がこんなふうに考えてたなんて思わなかった。
「でも、結局綾波にやな思いさせただけみたいだね。」
「いかりくん・・・」
「ごめんね、綾波。」
「ううん、わたしも碇君のこと誤解してたみたい。」
そっか。
碇君、わたしのこと「好き」って思ってくれてたんだ
・・・・って、え!?
「好き」?
碇君が?わたしを?って、それによく考えたらこの体勢って・・・・・・
「・・・い・・・碇君。・・・・・離して。」
わたしがそう言うと碇君も気付いたらしく、
「ゴ・・・ゴメン。」
といって手を離してくれた。うぅ、頬が熱い。
「ちょっと・・・恥ずかしかったね。」
「う・・・うん。」
碇君は照れくさそうにそういってから、
「これからもよろしくね、綾波。」
と言ってにっこりと微笑んだ。
「うん!」
わたしもそういって微笑んだ。うん、これからだよね。わたしも。碇君も。
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