買い物がすんで。
綾波の住んでる部屋に行ったんだけど。
そこでまた驚かされる羽目になった。
なぜかといえば、部屋がきれいに片付いてたからで。
まぁ、家具とかは前とおんなじようにほとんどなくて。
殺風景といえば殺風景なんだけれど。
それなりにきちんと整頓されて、掃除もされてるみたいだった。
・・・綾波が掃除してるっていうのか?
やっぱり変だよなぁ。
どう考えても変だ。
なんでこんなに綾波が家庭的なんだ・・・
とか思ってたら、先に部屋に入った綾波が僕のほうをじっと見てた。
「・・・なにをしてるの?」
「え、いや、きれいに片付いてるなぁって思って・・・」
「そう・・・ありがと」
ってそこでなんで照れたようにほほを染めたりするんだよぉ。
「あ、あの、それじゃあ、おじゃまするね・・・」
「・・・どうぞ。」
で、買ってきたものを適当な所においたんだけど。
何もすることがないんだよな、よく考えたら。
綾波はかばんから本を引っ張り出して読みふけってるし。
仕方ない、S‐DATでも聞くか。
しばらくそうやって過ごして。
思ってたより居心地が悪くないことに気付いた。
お互いなんにも口をきかずに、自分の事をしてるんだけど。
なんだか奇妙に落ち着くというか。
不思議だな。
「綾波」と一緒にいた時のような感覚。
そしてそれに思い当たるたびにかなしくなる。
違うって事にこだわってる僕がいけないんだろうか。
綾波を綾波だって認めてしまえば。
そうすれば楽になれるのかもしれない。
そんなことを考えてたら、綾波がいきなり立ち上がった。
「綾波?」
「・・・ご飯の支度。」
そう言ってすたすたと台所に歩いていく。
「あ、手伝うよ。」
「いいわ、一人でできるから。」
かといって、綾波に料理してもらって僕はここでボーっとしてるってのも落ちつかないし。
「泊めてもらうんだし、それくらいはさせてよ。」
「・・・なら、そうすれば。」
そっけない口調。
でも、照れてるんだろうな、これは。
なんとなく分かってしまう。
なんか・・・かわいいな。
・・・じゃなくてっ。
ちゃんと料理をしよう。
で、実際に料理をいっしょにしてみて。
・・・あぶなっかしい。
包丁の使い方とかもぎこちないし。
さすがに気になったので聞いてみた。
「綾波、いつから料理するようになったの?」
「・・・3日前」
「え?」
「やっとギブスが取れたから。」
あぁ、起動実験の失敗で・・・
って、あれ?
じゃあそれまではどうしてたんだ?
それに、手順自体は知ってるみたいだし。
そのことも聞いてみたら。
「勉強したもの。」
というお返事だった。
やっぱり綾波のことは良くわからないかもしれない・・・
食事をすませて。
その後はさっきと同じようにだらだらとしてたんだけど。
・・・さすがに眠くなってきたなぁ。
とはいっても。
よく考えたら寝る場所ないよな。
「ねぇ、綾波。」
「・・・なに?」
目だけこっちに向けて綾波が答える。
「布団か何かないかな?」
「どうして?」
「いや、眠くなってきたから・・・」
「ベッドがあるわ。」
さも当然のように言う綾波。
「それじゃ、綾波が困るだろ?」
「かまわないわ・・・」
でも、僕は泊めてもらう立場なんだし。
綾波を床で寝かせるわけにいかないよって言おうとしたら。
「一緒に寝れば良いもの。」
とんでもないことを言い出した。
「って、そんなわけにはいかないだろ?」
泊めてもらうだけでもまずいっていえばまずいのに・・・
「問題ないわ。」
綾波はそういうこと気にしないのかもしれないけどさ。
僕としては気になるわけで。
結局は僕が床で寝るって事で落ちついたんだけど。
それを納得してもらうのにずいぶんかかってしまった。
その後は特に何もなく。
綾波ももう寝てしまって。
でも僕は寝付けずにいるんだよな。
さすがにすぐそばで綾波が寝てるって思うとねぇ。
別にどうこうしようとか、そういうんじゃないんだけれど。
それでもね。
だったらなんでのこのこついてきたんだって感じだけれど。
あの時はそれでいいやって思っちゃったんだよな。
「ふぅ・・・」
軽くため息をついて体を起こす。
ベッドの上で穏やかに寝ている綾波。
そういえば綾波の寝顔見るのって初めてかもしれない。
なんか・・・無邪気な寝顔だなぁ。
こんな娘にさ。
どれだけのことをさせたら気が済むっていうんだろうな、父さんは。
そんなことを考えて。
この綾波を守ってあげたいって。
少しだけ思った。
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