気がついたら朝だった。
 いつのまにか寝ちゃってたんだな。
 あれ?
 なんかいいにおいがする・・・
 体を起こすと、テーブルに食事の準備がされてて。
 トーストと目玉焼きにサラダ。
 目が覚めたら食事が用意されてるっていう。
 そんな光景にちょっと感動してたら。
「・・・もう起きたの?」
 ポットを持って綾波が入ってきた。
「あ、うん。おはよう綾波。」
「・・・おはよう。」
 で床にペタンって座って。
「さ、食べましょう。」
「・・・いただきます。」
 その後は二人とも黙々と食事をして。
 で僕はこれからどうしようかなぁって思ってたんだけど。
 一応、家出中ではあるわけだし。
 学校に行くのもなんだし。
 適当にぶらついてれば諜報部の人が見つけてくれるかな、とか思っていたら。
「・・・はい。」
 ってなにかの包みを渡されて。
「これは?」
「・・・お弁当。」
 お腹がすいたら食べろって事なのかな?
「あ、ありがとう。」
「じゃ、行きましょ。」
「へ?どこに?」
 まさかついてくるつもりなのか?
 綾波と一緒に当てもなくぶらつく・・・・・・ぞっとしないな。
 けど。
「・・・学校。」
 綾波の言葉は結構予想外だった。

 それで、綾波と一緒に学校に向かってる自分が。
 なんとなく情けなかったり。
 結局、綾波に押し切られたっていうか。
 学校に行かない理由を説明できなかったというか。
 まぁ、そんなことはどうでも良いんだけどさ。
 それよりも。
 なんか視線を感じるんだよなぁ。
 ちらちらと。
 珍しいものでも見るような視線が。
 これは綾波と一緒に歩いてるから・・・なんだろうなぁ。
 なんにせよ落ちつかない。
 綾波は全然気にしてないみたいだけどさ。
「・・・どうしたの?」
 っていかにも不思議そうに聞いてくるし。
「別に、なんでもないよ。」
 って言ったらあっさり納得してくれたけど。
 相変わらず、妙に僕のことだけは気にかけてくれてるみたいだな。
 でも、変に干渉してこない。
 そういう意味ではひどく居心地が良いんだけど。
 けれど、なんでなんだろう。
 綾波が僕にこういう態度を取ってくれるのは。
 なにかした覚えっていうのもないし。
 理由が全く思いつかない。
 まぁ、考えても始まらないか・・・

 そんなこんなで教室についたたら。
 綾波はすっと自分の席に行ってしまって。
 なんとなく拍子抜けもしたんだけど。
 それよりも。
 トウジが僕のほうをなにか言いたさそうにじっと見てて。
 まぁ何を言いたいかは見当がつくんだけど。
 だからって僕のほうから話しかけようとも思わないし。
 黙って自分の席に座ることにした。
 そうしたら、しばらくしてトウジが近寄ってきて。
「ちょっと話があるんやけど。」
 それでクラスの雰囲気が変わってさ。
 みんな変に僕達に注目してきちゃったんで。
 それが嫌で、屋上に行こうって言って。
 さっさと教室を出ることにした。

 屋上はひとけもなくて、話をするにはちょうどいい感じだった。
 まぁ、ケンスケもついてきてたんだけど。
 そのほうが上手く話が進むかもしれないな、とも思った。
「で、話って?」
 軽くフェンスにもたれながら聞いてみると。
「・・・碇。わしを殴れ。」
 ふぅ、やっぱりか。
「相変わらずいきなりだね?」
 一応そう言ってみる。
 少し皮肉をいれてみたんだけどトウジは気にもしなかったらしい。
「あんときはなんも知らずにお前の事殴ってしもうたしな。おまけに助けてもろうたし。このまま借りをつくりっぱなしってのも性にあわんのや。」
 スゴイ理屈だよな・・・
 ケンスケもあきれてるよ。
「ほれ。」
 といって顔を差し出してくる。
「碇、殴ってやってくれよ。こういう恥ずかしいヤツなんだ。」
 まぁ、それでも良いんだけどさ。
「・・・やっぱ、やめとく。」
「なんでやっ。」
 いや、めんどくさいからなんだけど。
 それを正直に言うのもなって思ったし。
「別にさ、あの時のこととか気にしなくてもいいんだけど?」
「それじゃあわしの気が済まんのじゃ。」
 まったく。
 単純っていうか一本気っていうか。
「どうしてもって言うんなら貸しにしとくよ。」
「オノレというヤツはどこまで根性がねじまがっとんのじゃ!」
 本気で怒ってるトウジを見てたらなんとなくおかしくなってきて。
 それが火に油を注いでる感じで。
「何がおかしいんや!」
 そんなトウジとじゃれ付きながら。
 僕は、本当に久しぶりに心の底から笑っていた。


(BACK) (TOP) (NEXT)