そんな中。
 第四使徒の残骸を見学に行く機会があった。
 もっとも、前のときもそうだったんだけど、僕が行くってこと自体にあんまり意味はないらしい。
 まぁ、それは当然っていうか。
 僕が見たところでどうなるものでもないんだし。
 だから、強制って感じでもなかったんだけど。
 暇だから行ってもいいかなって感じで。
 そうしたらなぜか綾波もついてきて。
 二人でぼーっと残骸を眺めてたりしてた。
 その後でリツコさんのところに行って、使徒と人間の遺伝子がどうとか、エヴァがどうとかって話をしてたけど。
 正直何がなにやらわからない話だったので適当に流していた 。
 ただ、綾波はそれなりに理解してたらしい。
 いつもあんな難しい本を読んでるんだし、なるほどなって感じだったんだけど。
 ・・・もしかしたら、父さんとかから話を聞いてたりもしたのかな。
 そんなことを思ってたら父さんが僕のそばを通りすぎて。
 コアを見ながら何か報告を受けてるみたいだった。
 で、手袋をはずした父さんの手のひらにはやっぱりヤケドの跡があって。
 綾波を助けたって時の、か。
 あれ?
 なんで父さんは綾波を助けたんだ?
 父さんは綾波を大事にしてる。
 でもそれは『綾波レイ』って存在で。
 計画に必要な駒として、そういう意味で大事なんだって思ってた。
 別に今の綾波がどうなろうと代わりがいるって、そういうふうに思ってるはずじゃないのか?
 実際、第十六使徒の時。
 綾波が自爆しようとしてた時もなんの反応も見せてなかったし。
 どういうことなんだろう・・・
 とか思ってると。
「シンジ君、何見てるの?」
「ミサトさん。」
 じっと父さんのほう見てたからな・・・気にもなるか。
 あ、綾波まで僕のほうを見てる。
「別に・・・父さんがヤケドしてるなって。」
「ヤケド?」
「手のひらだけってどういうことなんだろうって、ちょっと不思議に思ったんですよ。」
「あら、ホント・・・ねぇリツコは知ってる?」
 それでリツコさんが事情を話してくれたんだけど。
 僕はなんとなく綾波の反応が気になって。
 話を聞きながら横目で様子をうかがってみた。
 でも何の反応もなし。
 綾波にとって、父さんが助けてくれたって言うのは結構大事なことなんだろうし。
 うれしそうにしたりもするかなとも思ったんだけど。
 自分には何の関係もないことを聞いてるような感じで。
 やっぱり綾波のことはよくわからない。

 数日後にも似たようなことがあって。
 いつもの起動実験中。
 零号機のとこで何かやってる綾波の所に父さんが歩いてきて。
 前も見たこの光景。
 あの時は、父さんと楽しそうにしてる綾波がうらやましくて。
 そのことで頭が一杯だったけど。
 今は、そのことは気にならない。
 父さんが何をしてようとどうでもいいことだし。
 ただ、少し気になったのは綾波の態度だった。
 前のときほど楽しそうにしてないっていうか。
 はっきりいってそっけない。
 まだ僕といる時の方が感情が出てるんじゃないか?
 どうしてこう言うことになってるんだろう。

 結局。
 どうしても気になった僕は。
 零号機の再起動実験の日。
 思いきって聞いてみることにした。
 ただ、いきなり「父さんのことをどう思ってるの?」とも聞けないんで。
「綾波は・・・怖くないの?エヴァに乗るのが。」
 って、前にも聞いたことを。
 もう一度聞いてみた。
「・・・どうして?」
「前の起動実験の時大怪我をしてるんだろ?」
「・・・今度は大丈夫だもの。」
 淡々と。
 当たり前の事を言うような態度の綾波に。
 どうして。
 どうしてそんなに。
「父さんをそんなに信じてるの?」
「わたしは・・・」
 そこで少しくちごもるようにして。
 逆に問い返してきた。
「あなたは信じていないの?」
 信じる?
 僕が父さんを?
 ヒドイ笑い話だよね?
「信じてなんかない。」
 前みたいに綾波にぶたれるかもって思ったけど。
 でも、これはごまかせない。
「いくら血がつながっててもさ?ほとんど口をきいたこともないどころかろくに会いもしない。それで家族だって言えると思う?」
 そこで肩をすくめて。
「一緒に暮らしてる他人のほうがまだ信じられるよ。」
 綾波は黙って僕の言うことを聞いてて。
 それで、軽く瞬きしてからこう言ったんだ。
「・・・それなら、わたしは?」
「え?」
 どういうこと?
「わたしと、碇君。」
 何が聞きたいんだ?
 そう思ってたら補足してくれた。
「一緒に暮らしているもの。」
「・・・綾波と僕が家族なのかって?」
 コクン、って。
 なんでそうなるんだ?
 いや、確かに一緒に暮らしてる他人のほうがって、そうは言ったけど。
 綾波と一緒に暮らしてもいるんだけど。
 あれはミサトさんとかのことを頭においてたからで。
 でも。
 綾波に感じてる居心地の良さ。
 それは否定できないから。
 だから僕はこう言った。
「・・・家族、なのかもしれない。」
 それを聞いて。
 綾波はかすかに微笑んだようだった。
 ほんの一瞬だったけど。
 僕にはそんな気がした。


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