零号機の再起動実験。
それ自体はあっさりと成功した。
綾波の言ったとおりに。
そして、前の時と同じように。
だから僕はそれほど心配はしてなかった。
むしろその後のこと。
やってくる第五使徒のほうがよっぽど気になっていた。
もっとも、どのみち今は勝てないことが分かってるから。
だからやられて帰ってくればいいだけなんだけどさ?
あの加粒子砲でやられるのって苦しいんだよね。
とは言っても仕方ないんで。
おとなしく初号機に乗って。
地上に射出されると待ち構えたように加粒子砲で撃たれて。
沸騰するLCLの中薄れ行く意識で。
ちょっとだけ後悔したりもしたけれど。
知ってるとおりに物事が動いたことになんとなく安心してる自分もいて。
それが少しイヤだった。
『これは・・・碇君とひとつになりたいわたしの心・・・』
声。
これは第十六使徒戦で聞いた声。
そして、最後に聞いた綾波の・・・声。
あの時に綾波が何を思っていたのか。
僕には分からない。
ただ、思い出すたびに悲しくなる。
綾波の声の調子と。
なにもできなかった自分とに。
だからずっと考えないようにしてた。
なのに・・・
目を開けると、じっと綾波が僕を見てて。
その姿がにじんでいたから。
僕は自分が泣いてたことに気付いた。
夢を見て泣いちゃってたのか。
だけど。
僕には泣きたくなるような思い出が多すぎるよな。
でも、結局は自業自得なんだろうな。
なにも。
そう、僕は本当になにもできなかった。
だから、仕方ないんだ。
「・・・碇君。」
僕がそうやって自虐的な考えに浸ってると、綾波が静かに声をかけてきた。
「わかってる。これからの予定だろ?」
そう言うと綾波は少し口を尖らせたようだった。
でも、なんでだろう?
それから軽く息をついて手帳を取り出し、ヤシマ作戦のスケジュールを読み上げてくれた。
僕の記憶と一致してる、と思う。
だから同じようにすれば使徒には勝てる。
それで。
「わかった。」
って短く言った僕を見て、綾波は少し不思議そうな顔をしていた。
その後、エヴァに乗りこむ前。
月を見ながらぼーっとしている僕に綾波のほうから声をかけてきた。
そのことにも驚いたけど問題は内容で。
「碇君はなぜエヴァに乗るの?」
前は僕のほうから聞いたこと。
そして僕の答えは、前に綾波が口にしたものと同じだった。
「僕には何もないから。」
今の僕にはエヴァに乗りつづけるっていう選択肢のほかは選べない。
ほかにしたい事がないっていうのもあるけれど。
そうしなかった時にどうなるかっていうのが怖いんだ。
綾波と同居したりして少し変えてしまっているけど。
決定的な変化を起こすのは、僕にはできない。
「そう言う綾波は?」
「・・・絆だから。」
前と同じか。
「父さんとの?」
「違うわ。」
きっぱりとした口調に思わず綾波のほうを見てしまった。
綾波は淡々として、ただ前を見ていた。
「・・・じゃあ?」
僕がそう聞くと、少し間を置いてから。
「・・・・・・わたし自身のための。」
って答えが返ってきた。
けど、どういうことなんだ?
さっぱりわからない。
だから何の事か聞こうと思ったら。
「・・・時間よ。行きましょ」
「あ、うん。」
はぐらかされてしまった。
まぁ、わざとじゃないんだろうけど。
そして。
エヴァに乗りこむ直前。
「碇君。あなたはわたしが守るから。」
そう、静かに言い置いて。
綾波の姿はエントリープラグの中に消えた。
『ヤシマ作戦スタート!』
ミサトさんの声。
そして着々と準備が進んでいって。
いざ引き金をひこうって時に。
この後どうなるのかを思い出してしまった。
綾波が盾になってくれる事。
知ってたはずなのに、考えないようにしてた。
だけど、もう思い出してしまった。
分かってて盾にするのか?
加粒子砲に撃たれる苦しさはイヤになるほど知ってるくせに。
だけど、どうしたらいいのか分からない。
なのに。
『どうしたの、シンジ君!?』
悩んでる僕をせかすように通信が入ってくる。
使徒から高エネルギー反応までしてくる。
「・・・くそっ。」
結局、僕は引き金を引いた。
ほかのやり方なんて思いつかなかった。
後は前と同じ。
綾波に護られて、僕はニ射目で使徒を倒した。
だけどそんなことどうでもいい。
僕はくずおれた零号機のエントリープラグを引き出してハッチを開けた。
そして、綾波が目を開けてくれたのを見て心底ほっとしたんだ。
「綾波・・・よかった。」
「また、泣いているの?」
「あたりまえだろ?どうしてあんな無茶するのさ。」
そう言われて戸惑うような綾波に。
「なんで僕なんかを守るためにあそこまでするんだよ。」
僕は、知ってたのに。
知ってて、ほかに方法が思いつかないからって綾波を犠牲にした。
もっと前のうちから考えてれば少しは手もあったかもしれないのに。
記憶と同じやり方をすればいいからって。
違うやり方をするのは怖いからって。
なにも考えずにいた。
そんな僕なのに。
「いくらそういう命令だからって。」
「違うわ。」
「え?」
「・・・家族だから。」
つぶやくような綾波の言葉に。
僕は頭を思いっきり殴られたような気がした。
僕が「家族かもしれない」って言ったから?
それでなの?
あんな、深い意味もないような、なんとなく言っただけの言葉なのに。
「・・・バカだな。」
ホントにバカだ。
気がついたら。
僕は綾波の胸に顔を埋めて泣いてた。
そして、綾波はずっと僕の頭をなでてくれてた。
救助が来るまで、ずっと。
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