ヤシマ作戦の翌日。
 綾波は大事をとって入院って事になって。
 僕も学校を休んで病院にいたりしてる。
 おまけに綾波のベッドの枕もとに座ったりして。
 ぽつぽつと他愛もないことを話してたりしてるんだけど。
 当然っていうかミサトさんなんかにはからかわれて。
 もっとも、僕のほうも零号機のエントリープラグを開ける時にかなりひどいヤケドをしてたみたいで 。
 実際、両手に包帯を巻いてたりするわけで。
 付き添いのために休んだわけじゃない。
 なんて言い訳をしてるんだけど。
 ヤケドのほうはきちんと治療はしてもらってるんだし。
 わざわざ今日も病院に来る必要があるわけじゃないもんな。
 ようするに綾波が心配なだけ。
 別に命に別状があるとか。
 意識が戻らないとか。
 そういうことは全くないのに。
 どうしても気になって。
 結局学校を休んで病院にきてしまったわけで。
 ひやかされてもしょうがないよなって感じなんだけどさ。

 そんなことを思ってたら、父さんが綾波の様子を見に来て。
 僕の時は全然顔を見せないのに。
 ずいぶんまめだよねとか思ったんだけどさ。
 で、綾波のほうにはやさしげな視線を見せるのに。
「なぜお前がここにいる?」
 僕への一言目がこれってさ。
 ま、そういう人だけどね。
 僕がいるのが邪魔って事かな?
 したがってあげる義理もないけどね。
 だからこう言ってやった。
「綾波の付き添いだけど?」
 父さんがどういう反応を示すかちょっと期待してたんだけど
 でも、父さんはそれで僕への興味をなくしたようで。
 後は僕がまるでいないように振舞って。
 綾波にやさしげな言葉をいくつかかけて。
 それですぐに帰って行ってしまった。
 その間、僕は綾波の事を見てたんだけど。
 父さんに優しくしてもらっても別にうれしくなさそうで。
 事務的に答えてるだけって感じがした。
 それで、父さんがいなくなった後。
 僕がじっと見てるのに気付いたみたいで。
「・・・どうしたの?」
 って聞いてきた。
「いや、別に・・・」
 本当は少し聞きたかったんだけれど。
 父さんのことをどう思ってるのかって。
 前のときははぐらかされてるし。
 でも、聞いてしまうのが怖くもあって。
 それで言葉を濁したら。
「そう・・・なら、少し眠るから」
 とだけ言って目を閉じたので。
 僕は綾波のほうに向けていた体をちょっと戻して。
 なんということもなく、そのままぼーっとしていた。

 それにしても。
 眠ってる綾波を見て思うことは。
 今度も何も出来なかったって。
 そんなこと。
 たしかに使徒には勝ってるけど。
 前をなぞっただけなんだから、ある意味それは当然のことで。
 結局、綾波を犠牲にしてるわけで。
 情けないよな。
 綾波の事を守ってあげたいと思ってたくせにさ?
 これでいいわけない。
 こんなんじゃダメなんだ。
 このままだったら、また僕は大切なものをなくすことになる。
 ちょっと前まではそれでもいいって思ってたんだ。
 あまり深く考えてなかったってのもあるけど。
 どうせあの時に全てなくしてるんだからって。
 それを繰り返した所でかわりはないって。
 そんな風にも思ってたから。
 だけど。
 僕にはまた大切なものが出来てしまった。
 今の綾波は確かに僕の知ってる綾波とは別人なのかもしれないけど。
 そのせいで色々悩んだりもしたんだけど。
 でも、僕のことを「家族」だって言っくれた綾波を。
 失いたくないって。
 そう思ってしまったんだ。
 だから、今度は頑張ってみよう。
 今更かもしれないけれど。
 それでも。


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