僕の右にはシャッターを切りまくってるケンスケ。
左には浮かれた感じでミサトさんと話してるトウジ。
正面にはそれに適当に相手してるミサトさん。
で、僕はと言えばそのどれにも関わらないようにして考え事をしてる。
オーバーザレインボウに向かうヘリの中。
アスカに会いに行く道の途中。
ただそれだけのことが僕の気を重くさせる。
アスカ。
あの世界でたった一人僕のそばにいた人。
そして別れてしまった人。
あの世界で気がついて。
最初にしたことはアスカの首をしめたこと。
なんでそんなことをしたのかは自分でもよくわかってない。
アスカが僕の頬をなでながら「気持ち悪い」って言ったことの理由も。
その後すぐに僕達は別々の道を行って。
そうして、僕は今この世界にいる。
アスカがあの後どうなったのか。
僕には分からないし、知ったところでどうしようもないことだけれど。
気にはなる。
本当は別れるべきじゃなかったのかもしれない。
もしかしたらアスカは今もあの世界にいるんじゃないかって。
そんなふうに思うこともあるから。
でも、あの時。
お互いがそばにいるのが確かに苦痛だった。
それまでの事を考えればそれはある意味当然で。
そう。
はじめの頃、アスカといるのは楽しかった。
バカにされたり振り回されたりしたけれど、それでも楽しかった。
でも次第にそれがギクシャクとしてきて。
最後にはそばにいることさえつらいような、そんな関係になってた。
もう一度それを繰り返したくはない、とは思う。
でも、どうすれば良いかはまだ分からない。
だから取りあえずは距離を置こうと思う。
そういう意味では僕が綾波の所に住んでるのは都合が良いのかもしれない。
単にチルドレン同士って関係のほうがお互いに楽だろうから。
これは逃げなのかもしれないけど。
でも、ほかにやり方が思いつかないんだ。
「着いたわよ。」
ミサトさんの声。
正直ここにはあまり来たくなかった。
できるだけ会うのを遅らせればとも思ったから。
でもいつかは顔を会わせなきゃいけなくなるんだしって。
そうやって自分を納得させた。
それでも一対一で会う気はしなくて。
だからトウジとケンスケも巻き込んだ。
結局は気休めなんだろうけど。
そんなことを考えながらヘリを降りて。
見るとも無しに見た方向に。
空母の上ってところにひどく不釣合いな黄色いワンピースを着た女の子。
アスカが腰に手をあてて立ってた。
まず感じたのは、自分でも意外なことに懐かしさだった。
元気そうなアスカを見たのは本当に久しぶりで。
嬉しくさえあった。
でも。
軽く頭を振って思う。
この女の子は僕の知ってるアスカじゃない。
僕のことを知ってるわけでもない。
それは少しさびしくて。
でも一方で僕をほっとさせる。
だからアスカのほうに歩いていくこともできる。
アスカは僕達が近づいていくのをじっと見てたんだけど。
僕に目が止まった時。
ひどく複雑な。
複雑過ぎて僕には分からないような、そんな視線を向けてきた。
僕にはそんなふうに見られる覚えはないのに。
でもそれは一瞬で。
「ヘロゥ、ミサト。」
アスカはすぐにミサトさんのほうを向いて挨拶をはじめていた。
「元気そうね、アスカ。」
「まぁね。で、そいつがサードチルドレン?」
そう言って僕のことを指差す。
「そうよ。でもよくわかったわね?」
「写真くらいは見たわよ。これから一緒にやってかなきゃいけないわけだし。」
「感心じゃない。」
なんでだ?
前はそんなことなかった。
僕の顔は知らなかったはず。
「なに言ってんだか・・・で、サード?」
なんか値踏みするような視線を向けられる。
「・・・なに?」
「取りあえず、これからよろしくね?まぁ使徒はアタシが片付けてあげるけど。」
自信たっぷりに言いきられて。
思わず苦笑いが漏れた。
「何よ?」
そうだったら。
そうできたらいいよね。
でもそんなふうに上手くはいかないんだ。
「別に・・・それなら楽ができるなって。」
けど僕はこう答えてた。
わざわざまぜっかえすこともないし。
だけど。
僕の返事を聞いたアスカは、ひどく不思議そうな顔をして僕を見返した。
それは、なぜかどこかで見たことのあるような表情だった。
(BACK)
(TOP)
(NEXT)