僕の悩みとは関係なく使徒は降って来る。
 そんなのは当たり前なんだけれど。
 悩み事を変に引きずるわけにもいかないし。
 それで負けたりするなんてしゃれにならないし。
 こういう風に考えるっていうのは僕も大分変わったってことなんだろうか。
 この世界に来てしばらくはそんなのどうでも良かったから。
 結局サードインパクトが起こるのなら。
 それがいつだろうとなんの変わりもないって。
 そう思ってた。
 もっとも、サードインパクトを防げるかもなんて思ってるわけでもない。
 あの瞬間に何があったのか。
 僕はほとんど覚えていないから。
 だからどうしようもないんだけど。
 それでも今投げやりにならずにいるって言うのは。
 綾波のことがあるからかもしれないし。
 一生懸命なアスカを見ているからかもしれない。
 二人のことは気になってるのは確かだから。
 好きとか嫌いとか。
 そういうのとは違うけれどね。

「ふーん、手で受け止める、ね。」
 その作戦を聞いたときにアスカはいやに冷静だった。
 前は、っていうか普通こんなこと聞かされたら騒いで当然なのに。
 まぁ、僕も平気な顔してるっていうのは同じだけれど。
 ミサトさんはそれが不思議らしく、少し戸惑ったような顔をしてる。
 ・・・あれ?
 そういえば、ミサトさん昇進してたんだ。
 気がつかなかったな。
 たしか、前はミサトさんの家でパーティやったりしたっけ。
 あれはなんのかんのいっても楽しかったな。
 あのままミサトさんの家に住んでたら今回もできたのかもしれないけど。
 アスカと一緒に暮らすなんてのは無理だったろうなとも思う。
 そういう意味では距離を置いておいたのは正解だったんだろう。
 それでも最近は大分態度が柔らかくなってはいるんだけどね。
 なんて事を考えてたら注意された。
 いくら知ってるからって聞いてる振りはしとかないとね。

 結局作戦内容は記憶の通り。
 これしか手はないって前に言ってたもんなぁ。
 ただ。
「ミサト、前にあたしが頼んでたヤツは?」
「あぁ、超高高度から使徒が来たときどうするのかって話ね?残念だけど実用のレベルにはいたってないの。だからこれしか手がないって事になるわ。」
 そんなことやってたんだ、アスカは。
「・・・仕方ないわね。」
「せっかくアイディアを出してもらったのにすまないとは思ってるわ。」
「いいわよ、別に。受け止めればいいだけなんでしょ。」
 さらっと言う。
 すごい自信。
 ・・・いや、自信なのか?
 いくら自分の力を信じてるって言ったって限度があるはずだよな。
 何か別の理由があるような、そんな気がする。
「今回の作戦の予想成功率は正直言って低いわ。だから嫌なら辞退もできるけど・・・」
 ミサトさんがそう言うとアスカは軽く笑って。
「別に辞退したってどうなるもんでもなし、だったら自分で何とかできた方がいいわ。」
「そう・・・シンジ君とレイは?」
「やりますよ。」
 アスカの言うとおり。
 ここで逃げたってなんの意味もない。
「・・・わたしもかまいません。」
 相変わらず冷静な綾波。
「一応規則では遺書を書くことになってるんだけど・・・」
「負けるつもりなんてないし、いらないわ。」
「・・・必要ないもの。」
「僕もいいです。」
 どのみち読んで欲しい相手もいない。
 それに僕達が負ければ何も残らない。
 なら書くだけムダだよなって。
「そう・・・終わったらステーキおごってあげるから。」
「いいわよ、無理しなくて。ミサトの財布の中身くらい予想つくし。」
 結局ラーメンだったもんな。
「そ、それくらいなんとかなるわよ。」
「そういうことなら別のものでもいいですよ?」
「わたしも。」
 僕達の答えを聞いてミサトさんは沈んでたけど。
 綾波は肉料理ダメだしっていう理由の方が大きかったんだよね、実は。


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