「泊まるって・・・?」
 あんまり予想外の言葉に思わず問い返すと。
「まぁ、部屋はないから居間にでも布団をしいてもらうことになるけど。」
「いや、そういうことじゃなくて。」
「別に遠慮することないわよ?」
 問題が激しく違う。
「僕が言いたいのは、いろいろとまずいんじゃないかってことで。」
「まずいって?」
 いや、そう真顔で聞かれても。
「変なうわさがたったりとか、まぁそういった感じの。」
「アンタねぇ・・・ファーストと同棲してるくせに今さらなに言ってんのよ。」
 思いっきりあきれたような口調。
「だから、僕がじゃなくて惣流さんが。」
「アタシの方も気にしなくていいけど?」
「そんなこと言っても・・・」
「大体、アンタとうわさになってそれがどうだって言うのよ?」
 きっぱりと言い切られてしまった。
 それはそうかもしれないんだけど。
 ちょっと悲しいものがあるな。
「騒ぎたいヤツラには騒がせとけばいいのよ。そんな連中とは付き合う気も起こらないし。」
 そう言って肩をすくめる。
「で、どうするの?」
「なら泊めてもらうけどさ。ひとつ聞いていい?」
「何よ?」
「どうしていろいろと、その、してくれるの?」
「んー?ちょっとしたお詫びと・・・あとは好奇心ってとこね。」
 軽く考えてからそんなことを言う。
 お詫びって言うのは、僕に冷たくしてたことなんだろうけど。
 もっとも、そのスジでいくとお詫びされるようなことでもなかったりはするけど。
 それは置いといて。
「・・・好奇心ってどういうこと?」
 するとアスカは何かをたくらんでるような笑いを浮かべた。
「決まってるでしょ?アンタには聞きたいことがあんのよ、いろいろとね。」
 それを聞いて僕は少しだけ後悔した。
 綾波のところに帰るのとどっちもどっちだったんじゃないかって。

 そんなこんなで時間が過ぎて。
 僕たちは夕食を食べていたんだけど。
 ちなみに夕食はアスカが一人で作った。
 正直、アスカの料理の腕が心配だったので手伝おうとしたら。
「アンタは客なんだから黙って待ってればいいのよ。」
 ってアスカに言われて。
 かなり不安な思いをしながら待っていたんだけど。
 出てきた料理は思ったよりきちんとしてたというか。
 むしろおいしかったので。
 ちゃんと料理ができるんなら前の世界でもやってくれればよかったのに。
 とかバカなことを思ったりもした。
 それはそれとして。
「ごちそうさま、おいしかったよ。」
 って言ったら。
「簡単なものしか作れないけどね。アンタだってこれくらいできるでしょ?」
 まるで当然のようにアスカがこう言った。
「よく知ってるね。」
 僕の言葉を聞いてアスカが軽く目を見開く。
 注意して見てなきゃ気がつかないくらいだけどね。
「ミサトさんに聞いたの?」
「まあね。」
 そして、何事もなかったように話を続けてくる。
 さすがだよね。
 って、僕は何をやってるんだか。
 アスカはアスカだってほとんど確信してるくせに。
 カマをかけるようなことをしてみたり。
 バカだよな、まったく。

 その後。
 洗い物も済ませて、僕たちは居間でごろごろとテレビを見てたりしてた。
「そういえばアンタって前はここに住んでたんでしょ?」
「こっちに来てすぐの頃はね。」
「アンタもミサトに連れ込まれたわけ?」
「そんなとこだよ。惣流さんも?」
「まぁね。」
 そう言って苦笑する。
「で、何でここを出てファーストのとこに転がり込んだわけ?」
 そう言ってこっちに乗り出してくる。
 そう来るか。
「なんとなく、じゃ納得してくれないよね?」
 それが一番大きな理由だったりするんだけど。
 まぁ綾波のところにいようって決めたのはもう少し別の理由だったけどさ。
「当然でしょ。」
 仕方ないか。
 変にごまかして怒らせるのもいやだし。
「ちょっと作戦のことでミサトさんと喧嘩してさ。」
「何やったのよ。」
「少し命令違反をね。」
「・・・まぁ気持ちはわからなくもないけど。」
 結構ひどいこと言ってるな。
「で、まぁ家出して。」
「・・・はぁ?」
「仕方ないだろ、そんな気分だったんだから。」
 軽く肩をすくめて。
「で、ふらついてたら綾波に会ってさ。行くところがないって言ったら、うちに来れば、って言われたから」
「・・・それでついてったわけ?」
「うん。」
「アンタねぇ・・・捨て犬じゃあるまいし、ふらふらついてってどうすんのよ。」
「ほかに知り合いもいなかったしね。」
「にしてもよ、ここに泊まるのにもずいぶんうだうだしてたくせに、よく同棲なんてしてられるわね。」
「別に同棲とかそう言うんじゃないよ。」
「そうなの?」
 まるで信じてないな、これは。
「綾波を女の子として思ったことはないからね。」
 少なくとも今の綾波はね。
「それにあっちもそんな風には思ってないだろうし。」
 結局、父さんの息子だからってかまっててくれただけなのかもしれないしね。
 嫌な考えだけどさ。
 変に期待するよりはよっぽどマシなんだろうな。
 多分。


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