それから数日。
 僕はひどく退屈だった。
 なぜかって言えば、精密検査が終るまで入院してなきゃいけないはめになったからで。
 よく考えたら、こっちの世界では戦闘のときに暴走したのは初めてだったんだよね。
   まぁ、意識はそれなりにはっきりしてたわけで。
 それを暴走といっていいものかっていうのもあるんだけれど。
 そこら辺の事を言うとめんどくさそうだったのでごまかしちゃったんだよね。
 あの間の事は何も覚えてないって。
 だから暴走と思われても仕方ないんだけれど。
 脳波だ、心電図だとあちこち引っ張りまわさたり。
 リツコさんにいろいろ聞かれたり。
 それはそれで面倒だった。
 とはいえ、時間にすればたいしたことはなくて。
 後の時間はベッドの上に転がってるだけ。
 歩けるのは病院内だけだったから動きまわる気も起きなかったし。
 で、綾波はできる限りお見舞いに来てくれたんだけど。
 さすがに夜までいてもらうわけにもいかないし。
 訓練とか実験とかもあったみたいだし。
 アスカはアスカであれから一度も来てくれないし。
 結局ほとんどの時間はひとりで過ごさなきゃいけないわけで。
 いちおう綾波にS−DATや本を持ってきてもらったりはしたんだけれど
 それでも暇つぶしにはならなくて。
 そうなると、考え事をするくらいしかなくなるんだよね。
 まぁ、考えなきゃいけないことが山ほどあるのも事実なんだけどさ。
 今までぼやけていた記憶もほとんど思い出せたし。

 だけど、『あれ』を防ぐにはどうすればいいんだろう。
 多分あれがサードインパクトなんだろうけど。
 最初は使徒を全部倒せばいいって言われてたんだよな。
 だけど、そうしたらそうしたで白いエヴァが襲ってきて。
 その後はああなっちゃったわけだし。
 『あれ』が起こってからどうこうするって言うのは無理だろうな。
 となると、あのエヴァを倒せばそれでいいんだろうか。
 けど、倒したところで次が来るような気もするし。
 根本的な解決にはならなそうなんだよね。
 大体、エヴァが来る前に自衛隊だかどこかに攻め込まれてネルフもぼろぼろになっちゃったんだよな。
 あれ?
 そういえばあの時、父さんは何をしてたんだ?
 いや、決まってるか。
 父さんは父さんで何か企んでたってだけだよな。
 どうせろくでもない事なんだろうけど。
 ・・・綾波なら知ってるのかな。
 まぁ、知ってたとしても教えてはくれないだろうし。
 結局のところ信じられるのはアスカだけなんだよなぁ。
 おかげで何をしたらいいのか悩むわけで。
 僕たちにはエヴァの操縦しかできないわけだから。
 エヴァにしたってアンビリカルケーブルで行動を制限されるし。
 ネルフ本部の方から簡単に操れる部分が多すぎるし。
 シンクロ率やLCL濃度を変えたり。
 ダミープラグなんてものもあるしね。
 しょせんはただの操り人形なわけで。
 まぁ、今の僕と初号機ならかなり自由に動ける気はするんだけど。
 それでも僕たちにできる事なんてほとんどなくて。
 何かを考えたところでそれを実行にうつす手立てがないんだよね。
 だからってあきらめるわけにもいかないんだけどさ。
 やっぱり、あんなさびしい世界はたくさんだから。

 ってこのままじゃ考えがぐるぐる廻ってるだけだな。
 すぐに答えが出るような物じゃないにしても。
 最後の使徒を倒すまでには・・・
 って、またカヲル君をこの手で殺さなきゃいけないんだよな。
 今まで考えないようにしてたけど。
 あんなことが二度もできるんだろうか。
 あの時はそうしないと人類が滅ぶからって理屈がつけられた。
 でも、どちらにしてもサードインパクトが起きるなら。
 カヲル君を殺さなきゃいけない理由なんてないじゃないか。
 むしろカヲル君を説得した方がよっぽどいい気がする。
 そう、だよな。
 襲ってくるから使徒と戦っているけれど。
 話し合いですむならその方がいいじゃないか。
 他の使徒ならともかくカヲル君になら話が通じるんだし。
 それにカヲル君に味方になってもらえればいろいろと心強いし。
 なにより、もうあんな想いを繰り返すのはごめんだった。
 綾波も。
 アスカも。
 カヲル君も。
 誰も助けられずに無力感にさいなまれるような想いは。


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