その翌朝。
 目を覚ますと綾波が覗き込むようにしてたりして。
 少し驚いたんだけれども。
「お、おはよう。」
 って挨拶したら。
「・・・おはよう。朝ごはんできたから。」
 とだけ言って台所の方に歩いていってしまった。
 雰囲気的に僕を起こそうとしてたって感じでもなかったし。
 単に僕の枕元に座ってただけのような。
 相変わらず綾波は謎だ。
 とはいえ、ここ数日とくに変なのも事実で。
 入院してたときもその傾向はあったんだけど。
 妙に近くにいるんだよね。
 今までは微妙に距離を置いてたのに。
 そんな事を考えてたら、綾波の事を見つめてしまっていたらしく。
「なに?」
 って見つめ返されてしまった。
「い、いや、べつに・・・」
 なんかやましい事をした気になってそうごまかしたら。
「・・・そう。」
 いつも通りのそっけなく聞こえる返事だったんだけど。
 どことなくがっかりしたように思えたのは気のせいなんだろうか。

 で、登校中。
 綾波がぴったりと隣に居るんでかなり落ち着かない。
 腕があたりそうな、っていうかあたってるし。
 綾波は気にしてないみたいなんだけど。
 こっちはひどく気になるというか。
 だからって、離れてって頼むのもなんかあれだし。
 とはいえ、黙ったままでいるとよけい意識しちゃいそうだったから。
「そう言えば、綾波ってさ。最近、訓練とか実験とか多いみたいだけど大丈夫?」
 何か話題を振ってみる事にした。
 実際かなり過密スケジュールみたいだから心配なのもたしかなんだけど。
 そうすると、綾波はちょっと視線をそらせるようにした。
「問題ないわ。」
「なら、いいんだけど。」
 なんか気になるな。
 隠し事してるような。
 ・・・いや、それならそれでいいか。
 ダミープラグとかそういった物に絡んでたら僕には言えないだろうし。
 僕にしたって綾波に隠してる事はいくらでもある。
 お互いそれは分かっててそばにいるんだし。
 下手に詮索するのもまずいよな。
「無理して体こわさないようにね?家の中の事とかなら僕がやれるし。」
「ええ・・・ありがとう。」
 まぁ、こんなところだよね。

 僕がアスカのところに泊まった翌朝の一件以来。
 綾波と一緒にいるとクラスのみんなは誰も話し掛けなくなってる。
 あんな気詰まりな状況は誰もが避けたいようで。
 暗黙の了解が出来上がったらしい。
 もっとも、元々たいして話をする事もなかったんだけどさ。
 何かはれものに触るような扱いをされるのもね。
 そうじゃないのはアスカくらいだけど。
 アスカにしても下手に綾波を刺激しないようにしてるみたいだし。
 だから今日みたいな日は綾波と二人でぼーっとしてるしかないんだよね。
 もっとも、それが不満ってわけじゃない。
 たまにぽつぽつと言葉をかわして。
 後はお互い、本を読んだりS−DATを聞いたりして。
 そうやってのんびりと過ごすのは性に合ってるから。
 まぁ、相変わらず綾波が寄り添うようにしてるのが気になるって言えば気になるんだよな。
 周りの視線とかも含めてね。
 別に悪意があるわけじゃないんだけど、その代わりに興味津々って感じだし。
 直接聞けない分、妄想がはたらくんだろうか。
 以前から僕と綾波は学校ではこうして過ごしてたはずだけど。
 微妙な距離の近づき方っていうのは案外分かってしまうものらしい。
 何かあったんじゃないかってみんなの視線が言ってるんだよね。
 別に何もあったわけじゃないはずだし。
 僕の方が教えてもらいたいくらいなんだけどさ。
 そう言っても信じてもらえないんだろうな、とも思う。
 ほんとにどうしちゃったんだろう、綾波は。


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