きっぱりとそう言った僕を。
アスカは怪訝そうな顔でみつめてる。
ピンと来ないのかな?
「ファーストはファーストでしょ?」
「前のことを知らない、ね。」
「・・・シンジ?」
ちょうどいい機会だし。
アスカに聞いてみようかな。
「アスカはさ、ミサトさんのことをどう思う?」
「な、何よ、いきなり。今はファーストの話でしょ?」
さすがに戸惑ってるな。
「関係あるんだよ。」
「どこがよ。」
「ミサトさんと・・・別に委員長でもいいんだけど、話をしてる時に違和感を感じない?」
「・・・」
「自分が知ってる事を相手が知らないってことにさ。」
「それはたまにあるわね。」
軽くうなずいて。
「ぼろを出さないように気をつけなきゃいけないし。」
「そういう時ってさ、なんか悲しくならない?」
アスカの返事を待たずに言葉を続ける。
「相手は僕たちとの記憶を持ってない。」
「・・・」
前の世界で、話したり、遊んだり。
そういったこと全部。
覚えてないどころか、最初から知らない。
「姿も、性格も、何もかも同じだけど。でも、さ。」
「・・・それで『違う』ってわけ?」
「そういうこと。アスカはそんな風には感じない?」
「アタシは・・・それでもミサトはミサトだし、ヒカリはヒカリだって思ってるけど。」
「うん。今さらどうしようもないことだから、そう考えられたらいいとは思うんだけどね。」
自嘲げにつぶやく。
「僕には無理なんだ。そのくせ、綾波や、トウジや、前の世界で仲が良かった相手とばっかり付き合ってる。」
前のことを思い出してしまうのはつらいのに。
でも、距離を置いてしまうことにも耐えられない。
「それで、ファーストのことは大事だけどどうでもいいってことになるわけ?」
「そうだね、今の綾波には優しくしてもらってるし、そのことはとても感謝してるから。」
だから、僕の出来る範囲で何かしてあげたいとは思うけど。
「こだわってるって訳じゃないんだ。綾波がなにをしてもそれはそれでって思うし。」
そこで肩をすくめて。
「というより、綾波は僕よりもあの人を選ぶだろうって気がするからね。」
そうなっても裏切られたとは思わないし。
綾波が僕にかまってくれてるのはあの人の息子だからってだけじゃないって思いたいけど。
それが大きな理由なんだろうとは思うから。
そこら辺、妙な期待はしてない。
「結局、ある程度突き放しちゃってるんだよね。これでも前に比べれば少しはマシになってるんだけどさ。」
最初は何もかもどうでも良くなりかかってたからなぁ。
現実感がイマイチ薄かったというか。
「それは、ファーストが『違う』から?」
「どういうことさ?」
「前のファーストだったら司令じゃなくてアンタのほうを選ぶって思う?」
アスカの質問は、はっきり言って盲点だった。
「・・・・・・考えたことなかった。」
けど。
「僕のことを選んでくれるんじゃないかって・・・そう思い込んでた。」
綾波をかなり理想化してたんだな、僕は。
何の根拠もないのにね。
どのみち、もう確かめることなんて出来ないんだけどさ。
「結局、アンタにとってファーストは特別だったってことよね。」
しみじみと。
「そうみたいだね。」
「ここでこうしてるのがアタシじゃなくてファーストだった方が良かった?」
「何・・・言ってるんだよ。」
軽く流そうとしたんだけど。
アスカはじっと僕をみつめてる。
ひどく真面目に。
「そんな話、したって意味がないじゃないか。」
今が変わるわけじゃない。
どうしようもない。
綾波があの時死なないでいて。
それで僕のそばにいてくれたら。
そんな空想は何度もしたさ。
だけど所詮は妄想だ。
「それに、アスカがいてくれてよかったって思ってるよ。」
そうじゃなきゃ僕は後ろを向きつづけていたかもしれないし。
アスカとなら前の世界でのことを語り合ったりすることも出来る。
今はまだ僕の心の整理がついてないけど。
いつかは。
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