加持さんの一件が落ち着いてからさらに数日。
 相変わらず僕は悩んでいた。
 成長がないとは自分でも思うんだけど。
 次の使徒をどうするのか結論が出てなかったし。
 母さんの事。
 ゼーレとエヴァシリーズの事。
 人間が十八番目の使徒だって事。
 加持さんの言ってた通り、考える事は山ほどあるわけで。
「・・・相変わらず暗いわね。」
 いつものように僕の前の席を占領してるアスカがそんな事を言い出した。
 最近、綾波はほとんど毎日のように実験にかりだされてて。
 その結果、ほぼいつもアスカと一緒に行動する事になってしまってる。
「文句があるならそばに来なければいいじゃないか。」
「確かに一人でいてもあんまり寄ってこなくなったんだけどねー。」
 あれだけきつい態度とってりゃ当然だろうと思うけど。
 それでもアスカのそばにいたがる人って言うのがいるんだよね。
 正直、不思議だ。
「んー、でも、一人でいるのも退屈なのよねぇ。」
 僕は暇つぶしの道具じゃないんだけどな。
「だったら委員長とかと話せば?」
 そう言うとアスカは少し顔をしかめた。
「・・・ひたすらノロケ聞かされるのよ。」
「なにそれ?」
「ヒカリがしょっちゅう鈴原のお見舞い行ってるのは知ってるでしょ?」
「何度か会ったな、そういえば。」
 僕の方でもあれから何度かトウジの病室には行ってる。
 そうするとたいてい委員長が来てるんだよね。
「いくら委員長だからってそこまでせんでもええのに、ってトウジも言ってたっけ・・・・・・ってアスカ?」
 頭を抑えて沈み込んでる。
「アイツ・・・そこまで鈍いわけ?」
「鈍いって、やっぱりそうなの?」
「アンタねぇ・・・見てればすぐ分かるでしょうが。」
「いや、そうなのかなぁとは思ってたけど。」
 ケンスケもそんなこと言ってたし。
 そう言えば、ケンスケとも最近あんまり話してないな。
 アスカや綾波がいつもそばにいるから話しにくいって言って笑ってたっけ。
 エヴァに乗るってだけでも大変なのにな、とも。
 どうもトウジの事があったせいで考え方が変わったらしく。
 前みたいにチルドレンになりたいって言わなくなったんだよな、ケンスケも。
「まぁ、とにかく。ヒカリと話すと、鈴原がどうしたとかお弁当を誉めてくれたとか、そんなのばっかなのよ。」
「なるほどねぇ。」
「そーいうわけなんで放課後ちょっと付き合いなさい。」
「なんでさ!?」
 どこがどうつながるとそういう話になるんだよ。
「いいじゃない。どうせヒマなんでしょ?」
「そりゃそうだけどさ。」
「じゃ、決まりね。」
「はぁ・・・分かったよ。」
 なんか逆らうだけ無駄な気分になったっていうか。
 ま、本気で断ってるわけでもないんだけど。

 とはいえ。
「まさか、芦ノ湖まで来るとは思わなかったんだけど。」
 なぜか遊覧船に乗ったりしてるわけで。
 しかも料金とかはアスカに出してもらってるという・・・
 まぁお金なんて持ってないから仕方ないんだけど。
 そのアスカは気持ちよさそうに風を浴びながら景色を眺めていて。
「たまにはこういうのもいいんじゃないかってね。」
 それもそうかもしれない。
 前は家出したりなんだりで結構うろついたけど。
 今回はずっと街の中だからなぁ。
 で、使徒の事とか人間関係とかの事とかで悩み続けて・・・
 不健康な話だよな、我ながら。
 けど、そう考えると綾波にもこういう時間をあげたいな。
 最近の実験漬けはあんまりだと思うし。
 綾波は大丈夫だって言ってるけど、やっぱりきついと思うんだよね。
 ま、あの人の命令なんで仕方ないのかなぁ。
 どうして碇ゲンドウなんて人間にあそこまで従うのかはよくわかんないけど。
 って、また悩み始めてちゃ世話ないな、まったく。
 今日はのんびり楽しもう、せっかくだし。

 で。
 ロープウェー乗ったり温泉卵食べたりしているうちに日も暮れて。
「なーんか物足りないわねー。」
「学校終ってから遊んでるんだから仕方ないんじゃない?」
 それでも大分引っ張りまわされたんだよな。
 しかし、こういうのって一応デートになるのかな?
 だからどうこうって訳でもないんだけど。
「んー、後は温泉かしらね。」
「ってまだどっか行くの?」
「せっかくそこら中にあるんだから行かないのももったいないじゃない?」
 どういう理屈なんだか。
「ここまで来たら最後まで付き合うけどさ。制服着てあんまり遅くまで動き回るのもまずくない?」
「そーいうのはなんか文句言われてから考えればいいのよ。」
 ま、いいけどね。
 結局のところ。
 晩ご飯も食べる事になっちゃって。
 家に帰るのは相当遅くだった。


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