「大体こんな所かな。」
 その後もしばらく話をして。
「あと、これは言うかどうか迷ったんだが・・・」
「なんですか?」
 妙に歯切れが悪い。
「シンジ君にはちょっとつらい話かもしれないんでね。だが、知らないですませるわけにもいかないだろう。」
 なんなんだ?
「碇ユイ博士の事だ。」
「母さんの?」
「そう、彼女が死んだときの事を覚えているかい?」
「母さんはなんかの実験で・・・僕は、それしか・・・」
「いや、君は知っているはずだよ。その場に居合わせたんだから。」
「そんな!?・・・そんな、はず・・・」
「思い出したくないのは分かる。だが、エヴァの起動実験のとき、確かに君はそこにいた。」
 エヴァの?
『なぜここに子供がいる?』
『私が連れてきたんです。』
『ユイ君、今日はきみの実験なんだぞ』
『この子には明るい未来を見せておきたいんです。』
 母さんは・・・エヴァの、中に・・・?
「どうやら思い出したみたいだな。」
「あれは初号機だったんですね?」
「ああ。」
 それなら分かる。
 初号機が僕を守ってくれた事。
 初号機に甘えられた事。
 母さんがいたのなら。
 でも。
「何で僕に思い出させようとしたんです?」
「さっきも言ったろう?知らずにすませられることじゃない。エヴァの事、使徒の事、サードインパクトの事、碇司令の事。君が考えなきゃいけない事は山ほどある。」
「それは・・・」
「そのための判断材料は多い方がいい、そういうことさ。」
 自分で考えて自分で決めろってことか。
 そこらへんは変わらないんだな。

「加持さん、最後に一つ教えて欲しいんですけど。」
「ん、なんだい?」
「僕に協力してくれるのはなぜですか?」
「気になるのかい?」
「気になるっていうか・・・」
 自分で頼んどいてあれだって思うんだけれど。
 ずいぶんあっさり承諾してくれたなぁって。
「俺はね、真実が知りたかったのさ。」
 遠くを見るような目でそんな事を言う。
「真実・・・ですか?」
「セカンドインパクトなぜ起きたのか。人類補完計画とはなんなのか・・・そういった事のね。そのためにずいぶん危ない橋もわたったよ。 」
「僕には分かりません・・・」
 何でそこまでするのか。
「俺にも分からないさ。ただ知りたかったんだ。理屈じゃないさ。」
「でも僕に協力してくれるなら、もう何かを調べるなんてできなくなっちゃうんじゃ・・・」
「シンジ君の話を聞いて分かった事もあるしね。これ以上危険をおかしてまで知りたい事でもなくなってしまったっていうのもあるな。」
「そんな物なんでしょうか・・・」
「そういう物さ。むしろ今はシンジ君の方に興味があるな。」
「僕に・・・ですか?」
「君はサードインパクトを経験してるんだろう?」
「え、でも、ほとんど覚えてないんですよ?」
 というか、イメージみたいなものでしかないというか。
「だが何もかも忘れてるわけでもないだろう?」
「それは、まぁ・・・」
「全て片付いたらその辺の話でも聞かせてくれればいいさ。」
 そこでスイカ畑に視線を向けて。
「それじゃ、そろそろ俺は行くけど、できたらスイカに水をやっといてくれないかな。このまま放っておくのもかわいそうだしね。」
「わかりました。」
「ま、落ち着いたら連絡するよ。大変だろうがシンジ君も頑張ってな。」
「・・・加持さんこそ。」
 加持さんは軽く笑って。
 ゆっくりと歩き去っていった。


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