そして今校門の前にいるわけで。
まぁ、綾波を待ってるんだけど。
周りからの微妙な好奇の視線にちょっと居心地の悪さを感じつつ。
いや、家に帰ってからでもいいような気もしたんだけど。
なんかそうやって先延ばしにすることが嫌になっちゃって。
っと。
綾波だ。
周囲にはまったく関心を払わない様子で、すたすたと歩いてくる。
僕に気付いたのか一瞬こっちに目をむけたんだけど。
すぐに視線を元に戻してそのまま通り過ぎようとしてたので。
「綾波。」
声をかける事にした。
さすがに足は止めてくれたんだけど。
「・・・なに?」
ってかなり冷たい口調で。
と言うよりそっけないのか。
どっちにしても腰が引けてしまうのは間違いないんだけどさ。
「話が・・・あるんだ。」
「話?」
「うん。いろいろ考えてさ・・・わかったっていうか・・・綾波に言ってなかった事とか、聞かずにいた事とか・・・そういうのが随分あった気がして・・・」
綾波はただ僕の方を見ているだけで。
「だから・・・きちんと話をしなきゃいけないって思ったんだ。結局、僕は綾波の事を何も・・・何も知らずにいた気がするから。」
口にしてみると今さらって感じだな。
ずいぶん虫のいい話と言うか。
だから。
「・・・わかったわ。」
って綾波が言ってくれたときは、本当にほっとしたわけで。
「それで・・・どんな話?」
近くの公園に着くと綾波はそう口を開いた。
なんでここで話をするのかっていうのもたいした理由はなくて。
さすがに他人に聞かれたくはない話だったし。
校門を離れてふらふら歩いてたらたどり着いたっていう。
ただそれだけなんだけど。
ミサトさんのとこから家出したときに綾波に拾ってもらった公園なんだよな。
だからどうって事もないんだけどさ。
まぁ、それはともかく。
「綾波はどこまで知ってるのかって・・・いや、こういう言い方じゃだめだよね。」
前のときもこういう風にずるい聞き方してたから怒らせたんだろうし。
「綾波は僕に前の記憶があるって・・・この一年をやり直してるって知ってるんだよね?」
結局ストレートに行く事にした。
大事な事をぼかしながら話を聞き出すなんて僕にはできそうにないし。
多分もうばれてるんだろうから、ここで下手にごまかしても意味が無いと思って。
なにより、きちんと話をするって決めたんだから。
すると。
「知ってるわ。」
綾波はあっさりとそう答える。
こんな事ならもっと早くこうすればよかったんだろうか。
「それで・・・綾波も同じなんだよね?」
これはただの確認だったんだけど。
「・・・ええ。」
「やっぱりそうだったんだ。」
それなりに思うところがあると言うか。
「それで、いつごろ気付いたの?まさか、最初から?」
「違うわ・・・あの人が来てしばらくした頃。」
『あの人』って・・・あぁ、アスカの事か。
「それまでも不思議には思っていたけど・・・碇君があの人にこだわるのを見てようやく分かったわ。」
こだわるって・・・そう見えてたのか。
そんなつもりはなか・・・ったとは言えないか。
あの頃ってアスカが『アスカ』だって知らなかったのに、過剰反応してたもんなぁ。
「碇君は『前』もあの人の事を気にしていたから。」
あれ?
でも『三人目』の綾波とはアスカの話なんてした事無いし。
そもそもアスカと会った事すらないんじゃ?
・・・いや、よく考えたらサードインパクトのときにいろいろと見透かされてるんだよな。
つまり綾波に隠し事をしようっていう方が間違いだったわけで。
何やってるんだろうな、僕は。
「けど、ずいぶん早くから分かってたんだね。僕なんてついこの間気付いたところだったのに。」
「・・・碇君はあの人の事しか見ていなかったもの。」
そういわれちゃうと返す言葉もないというか。
「そうかな?」
「違うの?」
さっと切り返してくる。
けど、どことなくすねてるような口調なのは気のせいなんだろうか。
「で、でもさ・・・それだったら、どうして教えてくれなかったの?」
「・・・碇君も分かってると思ったから。」
うっ。
これじゃあ、アスカの推理どおりじゃないか。
なんと言うか。
ひどく居たたまれない気持ちになってしまった。
いや、今に始まったことじゃないんだけど。
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