しばらくの間。
お互い何も言わずにいたんだけど。
このまま黙ってても仕方ないよな。
ここまで話してるんだから聞きたい事は全部聞いてしまわないと。
「綾波は、さ・・・父さんの事をどう思ってるの?」
「・・・なぜ、そんな事を聞くの?」
「どうして綾波が父さんに協力してるのかと思って。」
「協力?」
全く心当たりのなさそうな口調でそう問い返してくる。
「父さんのためにいろいろしてるんじゃ・・・ないの?」
「わたしはただ命令に従ってるだけだもの。」
当たり前のように答える綾波。
「命令って・・・じゃあなんで父さんの命令なんかを聞くのさ・・・」
「逆らう理由が無いから。」
「それが父さんに協力してるって事じゃないの?」
「碇君も司令の命令を聞いてるわ。」
「それは・・・」
エヴァに乗って使徒を倒す。
確かにある意味で、あの人の命令に従ってるのかもしれない。
かといって。
初号機を降ろされるわけにはいかなくて。
エヴァが無ければ僕には何もできないのは分かってるし。
そうなると綾波やアスカが戦ってるのをただ黙って見てなくちゃいけなくて。
もちろんサードインパクトを防ぐなんてのも夢のまた夢で。
だから、無駄に命令違反とかはしていなかったつもりだけど。
・・・綾波もそうだって言うのか?
そういえば、加持さんが綾波にも何か事情があるんじゃないか、って言った事があったっけ。
いや・・・でも。
「それなら、綾波は何をしようとしてるの?」
「碇君を守る・・・それだけ。」
当たり前のように言う綾波の様子に。
僕はそれが嘘じゃないって思えてしまった。
でも、それはひどく予想外な言葉だったわけで。
「どうして・・・そういうことになるのさ・・・」
僕はそう呟くのが精一杯だった。
「何度も言ったわ?」
確かに、綾波がそういうのを聞いた事はあったけど。
でもそこまでのものだとは思わなかったというか。
いや、違うな。
綾波があの人寄りに見えたから。
だから義務感とか、命令されたからとか、そういった物だって思い込んでたんだ。
ヤシマ作戦のときに綾波は『家族だから』って言ってくれてたのに。
僕はその言葉を信じきれなくて。
それでひねくれてたって。
そういうことなのか?
・・・馬鹿みたいだな、僕は。
けど、それは。
自分に自信が無いからだ。
「綾波がそこまで思ってくれる理由が分からないから。」
あの人よりも僕の方を選んでくれるなんて思えなくなっていたから。
僕はこの・・・『三人目』の綾波には何もしてあげられてない。
病室の前ではじめて会ったときから避け続けてたし。
こっちの世界でだって甘えてばかりだった。
なのに。
「どうして僕なの?どうして父さんじゃないの?」
「あの人はわたしのことを見てないから。」
「え?」
「わたしをとおして誰か別の人を見てる。」
穏やかに言葉を続ける綾波。
「わたしは代用品じゃないもの。」
どことなくかなしげに。
「・・・僕だって似たようなものだよ。」
「碇君?」
「綾波をずっと前の綾波とダブらせてる。」
だから。
「あの人と同じなんだ、結局。」
「違うわ。」
きっぱりと言い切る。
「あの人にとってわたしはただの人形だった。」
「・・・」
「けれど、碇君はわたしを見ようとしていたもの。」
そうなんだろうか・・・
「それに、わたしはわたしだから。」
『前』も『今』も同一人物なんだから問題はないんじゃないかって?
「・・・違うよ。」
だって。
「綾波は『三人目』じゃないか・・・」
それを聞いて綾波が目をしばたかせる。
「・・・どういうこと?」
「どうって・・・」
いまさら、なに言ってるんだ?
『三人目』って言ったのは自分じゃないか。
そんな風に思ってる僕を不思議そうに見つめて。
「そう・・・あの後、誰かが代わりをしてくれたのね・・・」
綾波はこう呟いた。
・・・ちょっと待て。
『あの後』?
『代わり』?
まさかマサカまさかマサカ。
「『綾波』・・・なの?」
もう・・・会えないと思ってたのに。
「・・・碇君?」
「どうしてこんなに涙が出てくるんだろうね・・・嬉しいはずなのにさ。」
「嬉しいときには笑えばいい、そう教えてくれたのは碇君よ。」
穏やかに言う綾波に。
僕は思わず微笑んでいた。
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