「タイクツよねぇ・・・」
こんなことをわざわざ口にしちゃうくらいに。
アレから半年がたったんだけど。
意外なくらいに何も起こらなかった。
まぁ、ネルフの司令が変わったり、シンジのお父さんとリツコが失踪したりしたんだけど。
アタシはといえば、まだチルドレンとして弐号機専属パイロットをやってるし。
量産型エヴァがネルフを襲うこともなく。
いきすぎなくらいに平和な日々を送ってるわけよ。
「相変わらずだらだらしてるわねぇ・・・」
「それはミサトもでしょうが。」
目の前でビールをぱかぱか空けながらそんなこと言われてもねぇ?
「作戦部の仕事なんてないも同然だしねー。」
・・・開き直ってんじゃないっての。
まぁ、ネルフがごたごたしてた時はミサトも死ぬほど働いてたみたいなんだけど。
その反動なのかしらねぇ。
今じゃ前以上にぐーたら生活だし。
「ったく、ビールもほどほどにしときなさいよ?」
後始末をすんのはアタシなんだし。
「はいはーい、っと、そーいえばアスカ宛に手紙がきてたわよ?」
「へ?」
「でも差出人も消印もないし・・・ちょっと不気味よねぇ。」
それってまさか。
「ふぅん、とりあえずもらっとくわ。」
「そう?」
ミサトが渡してくれたのは、何のかざりっけもないシンプルな封筒だった。
で、表に『惣流・アスカ・ラングレー様へ』とだけ書かれてる。
ったく、まぁ、アイツらしいって言えばアイツらしいのかもしれないけど。
もうちょっと、こう・・・って期待するだけムダかもね。
で。
そそくさと部屋に戻って手紙の封を開ける。
なんか自分でもおかしいくらいに興奮してた。
『久しぶりだね、アスカ。』
って久しぶりにもほどがあるっての。
とか思いながら、口元は笑ってた。
『ほんとはもっと早く手紙を書きたかったんだけど、そんな余裕がなくてさ。』
なんて感じで、最初の方はよかったんだけど。
読み進んでいくと。
『そうしたら綾波が・・・』
だの。
『綾波に・・・』
だのと連発されてて。
のろけかってーの。
ったく。
思わず破り捨てそうになっちゃったじゃない。
相当性格変わったみたいね。
けど。
もう一度会いたいもんね。
今なら『あの頃』のことも笑って話し合える。
そんな気がするから。
◇ ◇ ◇
「・・・きて・・・かり・・・くん。」
かすかに体がゆすられる感覚。
ゆっくりと意識がはっきりしていく。
「・・・ふぁ。」
目を開くと、赤い瞳が穏やかに僕を見つめている。
「あれ、寝ちゃってた?」
「ええ。」
「ちょっと横になるだけのつもりだったんだけどな。」
やっぱ疲れてるのかな。
「今日の作業は休む?」
小首をかしげながら問い掛けてくる。
「大丈夫だよ。それにお世話になってるんだからちゃんと働かないとね。」
「・・・でも。」
「それに、結構楽しいしさ。加持さんの気持ちも分かるな。」
いろいろなところを転々とした挙句。
農村に住むってことになった時はさすがに驚いたけど。
どうも、加持さんはスイカを育ててる間にはまってしまったらしい。
で、僕たち四人は加持さんの知り合いだという農家のおじさんのところで居候してるわけで。
にしても、どういう知り合いなんだろうなぁ・・・
聞いてみたけど意味ありげな笑いを漏らすだけで教えてくれないし。
まぁ、悪い人じゃないのは確かなんだけど。
「そういえばカヲル君は?」
「知らないわ。」
って。
相変わらずカヲル君にはきついなぁ。
なんか、そんなところもかわいいって思えるようになってきたんだけどさ。
「とりあえず畑の方に行こうか?カヲル君もあっちかもしれないし。」
「そうね。」
そして、二人肩を並べて歩いて。
僕たちの畑に向かう。
畑にはもうカヲル君が居て。
僕たちに笑いかけてくれる。
エヴァとは無縁の。
泣きたいほどに穏やかな。
そんな生活。
幸せだなって。
そう、思った。
だから。
いつかアスカに会いに行こう。
そして四人で昔のこと話し合おう。
僕たちはようやくそれができるようになれたのだから。
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