「何をぼんやりしてるんだい?」
 アダムの残骸をただ見ていた僕に。
 カヲル君が穏やかに声をかけてきた。
「いろいろ・・・そう、いろいろなことを考えちゃってさ。」
 あの人の、父さんの望んでいたこととか。
 母さんは何を望んでいたのかとか。
 まぁ、それに関してはほとんど割り切ってるんだけど。
「これで本当に全てが終わったのかって。」
「あっさりと行き過ぎたかい?」
「それもあるんだけど・・・アダムを殲滅しただけでほんとにいいのかな、とか思っちゃって。」
 確かにサードインパクトは起きないんだろうけれど。
 ゼーレには何のダメージも与えてないんだし。
「その辺は問題ないと思うよ?ゼーレのご老人方は実現の可能性がない計画に固執するほど愚かではないからね。」
「そうなの?」
「現実を見ることができないのなら、世界の実権など握れはしない。そういうことさ。」
 カヲル君はそう言って軽く肩をすくめた。
「だから、ゼーレの方で何かすることはないだろうし・・・ネルフに関して言えばできることはたかが知れているからね。」
 皮肉げに笑う。
「だから安心していいよ。まぁ、多少のいざこざはあるかもしれないけれど・・・」
「そこまで気にしてたらきりがないって?」
「そういうことさ。」
 なんとなく納得しきれない部分もあったけど。
 考えても仕方ないことなんだろうな、多分。

 リリスの部屋を出た僕たちを綾波が待っていた。
「綾波・・・どうしてここに?」
「碇君たちだけではここから出られないわ。」
 驚く僕にかまわず、綾波はそう口を開いた。
「わたしのIDならターミナルドグマでも自由に行動できるから。」
「そう・・・なんだ。」
 綾波は話してる間、僕と目を合わせようとはしなくて。
 非常に気まずいものがありつつ。
 自業自得なんだよな、これは・・・
「そろそろ行ったほうがいいんじゃないかな?」
 そんな微妙に重苦しい気配を察したのか、カヲル君が口をはさんできてくれた。
「そう・・・だね。」
 確かに、こんなとこでのんびりしてるわけにもいかないし。
「綾波、案内をお願い。」
「分かったわ。」
 そう言うと、綾波は僕たちの方をほとんど見ずにすたすたと歩き出した。

 それからずっと。
 綾波は口をきかなくて。
 外についても。
「・・・それじゃ。」
 と、そっけない一言を口にしただけだった。
 そして、ゆっくりと歩き去っていく綾波に。
「それじゃあ・・・また、ね。」
 僕もそうつぶやくことしかできなくて。
 ただ見送ることしかできなくて。
「それでいいのかい?」
「カヲル君?」
「口をはさまずにいようかとも思ったんだけどね。綾波さんとこれで別れてしまっていいのかい?」
「いいって・・・仕方ないじゃないか。僕はこれから・・・」
「僕のことは『仕方ない』であきらめなかったのに?」
「それとこれとは・・・」
 思わずカヲル君を振り仰いだ。
 そこには穏やかな微笑があって。
「違わないよ。君がそれを望むか望まないか、それだけなのさ。」
「でも・・・」
「綾波さんがそれに応えるかどうかはまた別の問題じゃないのかな?」
 僕の・・・望み。
 そんなの決まってる。
 当たり前じゃないか。
「ありがとう、カヲル君。」
 おかげで踏ん切りがついた。
 そうだね。
 ここであきらめてちゃ確かに意味がない。
「ちょっと、行ってくるよ。」
 僕は駆け出した。
 綾波の背中に向けて。

 ゆっくりと歩いていた綾波にはすぐに追いついた。
「綾波っ。」
 声をかけたけど。
 綾波はただ立ち止まっただけで。
 その姿は僕を拒絶しているようにも見えたんだけど。
 でも気づいた。
 綾波の体がかすかに震えているのに。
 それが分かった瞬間、背中から綾波を抱きしめてた。
「いかり・・・くん?」
 綾波は体を硬くはしたけど。
 僕の腕を振り解こうとはしなかったから。
「一緒に、来て欲しいんだ。」
 と、ただ、ささやいた。
「・・・どうして?」
 戸惑うような。
 怒ってるような。
 そんな声。
「全部自分で背負えば、それでいいと思ってたんだ。綾波も、アスカも巻き込まないようにしたいって。」
「それは・・・勝手。」
「そうだね。だから、綾波に決めてもらおうと思って。僕と来てくれるかどうかを。」
 ひどく今更だけど。
「この先、どうなるかなんて全然分からないけど。だけど、僕は綾波と一緒にいたいから。離れたくないから。」
 しばらくの間。
 お互いに何も言わずにいて。
 そして、僕の腕にぽつぽつとあたるものがあった。
「あや・・・なみ?」
「うれしい時も涙は出る・・・そう、こういうことなのね・・・」
 そう言って僕に体を預けてくる綾波を。
 ただ抱きしめて。
 それでふと思った。
 終わったんだなって。
 ようやく終わったんだって。
 なぜか、そう思えた。


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