父さんを待ってる間。
暇だったんでとりとめもなくカヲル君と話してたんだけど。
「シンジ君、君はお父さんをどう思っているんだい?」
突然そんなことを聞いてきた。
「どうって・・・どうでもいい人、かな?」
僕がそう言うと、カヲル君は意外そうな表情をした。
「そうなのかい?」
「前は・・・確かに父さんに僕のことを認めてもらいたいとか、そんなことを考えてたけどさ。こっちの世界に来てからはなんかさめちゃって。」
それは他の人に対しても同様なんだけど。
でも、ここまで無関心になったっていうのは、あの人のやってることがダメすぎたってことなんだろうなぁ。
「逆に、憎いと思ったことはないのかい?」
「そういうレベルも超えちゃったな。」
軽く苦笑いして。
「ホントに愛想が尽きちゃったんだ。もう勝手にしてって感じなんだよね。」
「なるほどね。」
カヲル君は納得したようにうなずいた。
「けど、そうしてこんなことを聞くのさ?」
「なんとなく・・・かな。これから碇司令と会うことになるからね。」
「気を使ってくれなくても大丈夫だよ。しなきゃいけないことがあるなら迷わない・・・そう決めたからね。」
「さっきも思ったけれど・・・シンジ君は強くなったね。」
「ただ無茶するようになっただけだよ。」
「それでも、前に進めるのは強ささ。僕にはそれができずに居たからね。」
「・・・カヲル君。」
「っと、来たようだ、思ったより早かったね。」
見下ろすと。
あの人がいた。
ひどく慌てた様子で。
ゆっくりと降りてくる僕たちを見たあの人は。
「なぜ、お前たちがここに居る。」
さして驚いた様子も見せずそう言い放った。
「さすがだねぇ。」
「感心してないでよ・・・」
のんきにそんな会話をしていると、いらついた様に問いを重ねてきた。
「答えろ。」
けど、そんなのは無視してカヲル君に尋ねる。
「それで、アレは?」
カヲル君は少し目を細めるようにして。
あの人の上から下まで視線を流した。
「間違いないね。アダムは碇司令の右手に居る。」
それを聞くとあの人は左手で右手をかばうようにした。
「何を考えている?そこの使徒と結んで何をする気だ。」
「それはこっちのセリフだよね。そっちこそアダムをそんなとこに隠して何たくらんでたのさ?」
「・・・ユイに会うためだ。」
ってさぁ。
「母さんに?どういうことさ。」
「お前も知っているようにユイは初号機の中にいる。」
それがどう・・・って、ああ、そういうことか。
「サードインパクトが起これば全てが溶け合うから。そうすれば母さんとも会えるって?」
「そのとおりだ。」
「そのためだけにここまでやったっていうの?」
「ヒトの補完はユイの望みでもある。」
「まさか?」
母さんがサードインパクトを望んでたっていうのか?
「ユイはヒトの未来に行き詰まりを感じていた。それを解消するために人類補完計画がある。私はそれに従っているに過ぎん。」
ただ淡々と。
何かを思い出すように続ける口調は。
嘘を言っているようには見えなかった。
それでも。
「サードインパクトを起こすわけにはいかない。」
たとえ母さんがそれを望んでいたんだとしても。
僕には僕の考えがある。
僕自身の望みがある。
「そのためにアダムを殲滅させてもらう。」
「そんなことをしてお前に何のメリットがある?」
「サードインパクトの先には絶望しかないからだよ・・・あの先には何もない。」
「・・・何を、言っている?」
「あなたには分からない。僕と・・・」
アスカ以外には。
理解してもらうつもりもない。
「カヲル君、お願い。」
「わかったよ。」
そう言ってカヲル君が一歩前に出る。
それを見たあの人がいぶかしげに問い掛けた。
「なぜシンジに協力する。使徒の望みはアダムに回帰することのはずではないのか?」
「本能に負けるのはサル並らしいのでねぇ?それに今の僕はシンジ君と生きることが全てなのさ。」
からかうようなカヲル君の口調。
ってなんか非常に誤解を招く発言のような気がするんだけど。
「・・・戯言を。」
「どう思うと勝手だけれどね。シンジ君の望みは果たさせてもらうよ?」
その瞬間、あの人の右手が手首から切断されて。
それが地面に落ちるまでに、いくつにも寸断されていた。
「・・・なんか、あっさりだね。」
「まだ、なかば休眠状態にあったからね。」
「でも、これで終わったんだよね・・・実感わかないんだけど。」
などと話してる僕たちの傍らで。
「ぐぅぅ。」
あの人がうめき声をあげていた。
たぶん痛みだけじゃないな。
あの人にとっては最大の望みをたたれちゃったわけで。
それについてはいろいろと思うこともあるけれど。
でも、もう言葉をかけるつもりはなかった。
何を言っても、たぶん意味はないだろうから。
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