シンジレイの事情

第2話


「けどアンタの猫かぶりも相当のもんよねえ。」

 その日の夜、 同居人である惣流アスカがそんな事を言い出した。

 アスカはわたしのいとこで、生まれた時から本当の姉妹みたいに一緒だった。

 だからお互いの事はほとんどなんでも知ってるし、好きな事を言い合える仲でもある。

 私たちの高校入学を機に親元を離れて一緒に暮らすようになったんだけど、今のところはうまくやれてると思う。

 さすがに猫をかぶりっぱなしだと疲れることもあるので、くつろいで話ができる相手というのは貴重なものだと思ったりもする。

「友達が『綾波さんって神秘的よねえ』とか言ってるのを聞くと 笑いをこらえるのに苦労するわよ。本性はこんななのにねえ。」

  とは言え、さすがにここまでいわれると腹が立つのよね。

「こんなとはなによ、こんなとは。」

「だってそうじゃない。アンタのどこが神秘的なのよ。」

「えー、この銀色の髪とかー、真紅の瞳とかー。これを神秘的といわずしてなんというのよ。」

  そうわたしが反論すると。アスカは肩をすくめながら、

「容姿はそうだけどね。アタシが言ってるのは性格の事よ?」

 と、あきれたように言い放った。

「・・・・・・むぅ。」

 いや、まあ、確かにそーいう性格はしてないんだけどぉ・・・

「ま、あそこまでの性格を演じきってるっては、ある意味感心するけど・・・・・・」

「だって周りからの賞賛の視線のためだったら何でもできるじゃない?」

 わたしがそう言うとアスカは棒でも飲み込んだような顔になった。

「アンタだけよ、そんなのは・・・」

「そーかなぁ?」

 注目を浴びる時のぞくぞくって気分は病み付きになると思うんだけどなぁ。

「そりゃあ、アタシだってみんなから尊敬されたりするのはいい気分だけどね。」

「そーでしょ?」

「でも、そのために自分を変えようとは思わないわね。そーいうのって面倒じゃない?」

「全然。」

 間髪入れずに答えたわたしを見てアスカはこれ以上話を続ける気力を無くしたみたいだった。

「ま、まあいいけどね・・・・・・」

 わたしたちはいつもこんな感じで、わたしはそれに満足してたんだけど・・・



◇ ◇ ◇


 コンコン

 優しく響いてきたノックの音に僕は勉強の手をひとまず止めた。

「シンジ、一休みしてお茶にしたら?」

 母さんが柔らかく微笑みながらそう勧めてくれた。

「そうだね・・・・・・今日の診療は終わったんだよね?せっかくだし、下で父さんと一緒に・・・」

「そう?お父さん、喜ぶわよ。」

「あ、それは僕が持つよ。」

 そう言って、ケーキと紅茶の乗ったお盆を引き受ける。

「別に良いのに・・・」

 母さんはそう言うけど、これくらいはね。



 居間では父さんがくつろいだ様子でお酒を飲んでいた。

 僕に気付くと少し目を細めてくれた。

「おや、めずらしいな。」

「たまには父さんとゆっくり話そうと思ってさ。」

 それを聞くと父さんはますます目を細めた。

「それはいい。最近シンジはずいぶん根をつめて勉強しているようだったしな。少しのんびりする事も必要だぞ?」

「わかってるよ。でも、さ・・・」

「例のクラス委員の娘か?」

 少し面白がっているように聞いてくる。

「そんなとこだよ。」

 軽く苦笑いしながら答える。

 それだけでもないのだけれど。

「そういう事なら仕方ないな。まあ、頑張るといい。」

 父さんは何やら一人で納得してしまってるみたいだ。

 母さんも一緒になって穏やかに微笑んでる。

 ・・・・・・この人達に心配をかけちゃいけない。

 そう思う。

 捨てられた僕を引き取ってくれた優しい人達を悲しませるような事だけは絶対にできない。

 そう、強く思う。



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