シンジレイの事情
第5話
あれから何日かが過ぎた。
その間、僕は綾波さんのことばかり考えていた。
少し前からは想像もできないな、僕がこんなふうになっちゃうなんて。
これからどうなるのか、少し恐くもあるけれど・・・
それを面白く感じている自分もいる。
今までと違って「生きてる」って感じもするし。
なにより、綾波さんのことを考えるのが楽しいんだ。
それに、綾波さんと話すのも。
正直、クラス委員になったことをよかったと思ったな。
いやでも綾波さんと話す機会ができるしね。
だから、今日先生から綾波さんが休みだって聞いた時はがっかりしたんだ・・・
◇ ◇ ◇
「うー、頭いたいー。」
やっぱり昨日は飲みすぎたかなあ。
アスカと飲み比べなんてするんじゃなかった・・・
「あれくらいで二日酔いなんて、レイは酒に弱いのねー。」
なんでアスカはこんなに元気なんだろう。
私と同じかそれ以上に飲んだはずなのに。
「あれくらいって、ビール十本があれくらいなの?」
「ビールなんて水みたいなもんじゃない。いくら飲んだって何ともないわよ。」
・・・そういうものなの?
「まあ、その様子じゃ学校には来ないほうがいいわね。アンタのファンが減るわよ。」
アスカはにこにこしてる。
わたしをからかうのがそんなに楽しいのかしら。
「わかってるわよ。とても授業受ける気分じゃないし。」
「先生には風邪ひいたって言っといてあげるから。薬飲んで寝ちゃいなさい。」
「うん、ありがとアスカ。」
「それじゃあ、いってくるわね。」
「いってらっしゃい。」
さて、いわれた通りに薬飲んで寝ますか。
その前にドアの鍵掛けとかなきゃね。
寝てる間に変な人とかに入ってこられると困るし・・・
◇ ◇ ◇
やっと授業が終わった。
綾波さんが休みって言うだけでずいぶんつまらない一日になるんだな。
早く綾波さんの風邪が治るといいんだけど・・・
そんな事を考えながら帰り支度をしていると、先生に声を掛けられた。
「碇、ちょっと頼みがあるんだが。」
「何ですか?」
「いや、このプリントを綾波の家まで届けてくれないか?早いうちに目を通してもらっといた方がいいと思うんでな。」
「わかりました。」
やった。
正直そう思った。
これで綾波さんの家にお見舞いに行くオフィシャルな口実ができた。
「すまんなぁ、本来なら綾波の同居人に頼むんだが・・・」
あれ?
「同居人って?」
「ん?ああ、隣のクラスの惣流のことだよ。名前くらいは知ってるんじゃないか?
」
確かに名前は聞いたことがある。
結構な美人で、短気な性格で有名だって。
その話を聞いた時は、綾波さんとは正反対だって感じたけど。
二人が同居してたなんて知らなかったな。
ま、そんな事はどうでもいいか。
◇ ◇ ◇
ピ−ンポーン
呼び鈴の音で目が覚めた。
今は・・・三時!?
随分寝ちゃったなあ。
だいぶ落ち着いてきたけど、頭痛のほうはまだまだねえ。
ピーンポーーン
あー、うるさいっ。
アスカったら鍵忘れたのね。
ったく、頭痛に響くじゃない。
それとも、新手の嫌がらせかしら?
「はいはい、今開けるからー。」
飛び蹴りでもしてやらないと気が済まないわ。
アスカのことだしだいじょぶでしょ。
さーて扉を開けて、同時に飛び上がって、
「頭痛に響くからピンポンならすんじゃなーーーーー一いっ。」
ドゲシッ
ふっ、決まったわ。
ってアスカにしてはずいぶんもろいわねぇ。
「いてて…」
・ ・・え?
アスカじゃない?
おそるおそる倒れた人影の方に視線を移す。
黒髪の、少し線の細い感じの男の子…って碇君!?
なんで?
どうして?
予想外の事態にパニックに陥っているわたしを前に、碇君は困ったように口を開いた。
「・・・あの・・・先生に頼まれて・・・プリント持ってきたんだけど・・・・・・」
でも、碇君が何を言っているのかなんて今のわたしにはどうでもよかった。
わたしの頭の中では、
どーしよー、どーしよー、どーしよー、
って言葉がリフレインしていたのだから。
「じゃ、じゃあ僕帰るから。お、お大事に・・・」
一方、そう言って碇君は帰っていった。
後に残されたのは、ぼーぜんとしたわたし。
碇君もそうとう混乱してたみたいだなぁ。
やっぱ、ばれちゃったかな?
てへっ。
なーんて言ってる場合じゃないよー。
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