シンジレイの事情

第6話


 碇君にばれてしまった。

 あれを見れば気付くわよね。

 学校でのわたしは演技なんだってことに。

 そして、本来のわたしは学校でのわたしと似ても似つかぬ性格をしてるって事に。

 ああ、どーしよー。

 今まで苦労してアイドルとしての地位を築き上げてきたのに。

 こんなことでもろくも崩れ去っていくのね・・・

 いや、むしろ。

 ただの見栄っ張り女としてさげすみの目で見られてしまうかも・・・

 うぅ、学校行きたくないかも。

 とはいってもサボりつづけるわけにもいかないし。

 仕方ないのね(クスン)。

 しかし、学校で会っても碇君は何も言わなかった。

 みんなの態度も別に今までと変らないし・・・

 碇君ってば誰にも言わなかったのかな?

 そうよっ。

 碇君ってやさしい性格してるみたいだし。

 人の弱点を突っつくようなことはしないんだわ。

 きっとそうだわ。

 あー、たすかったー。

 見られたのが碇君でよかったー。

 などと思って安心していたわたしはにこにこと廊下を歩いていた。

 と、いきなり斜め後ろから声をかけられた。

「楽しそうだね。」

 ・・・えっ!?

 わたしは首だけギ・ギ・ギと声のした方に向けた。

 やっぱり・・・

 そこには、碇君が立ってた。

「い、碇君・・・・」

「ずいぶんな態度だなあ。人のこと化け物か何かみたいに。」

「あ、あの、その。」

「まあしょうがないか。あんなとこ見ちゃったし。」

「うんと、えっと。」

「でもびっくりしたよ。綾波さんがああいう人だったなんて。」

  何も言えずにいるわたしをしり目に碇君は楽しそうにしゃべっていた。

「みんなが知ったら驚くだろーなー。」

 マズイ。

「い、碇君。・・・い・・・いわないで・・・」

 碇君はにこにこ笑いながらこっちを見てる。

 しばらくしてわたしにも碇君が何を望んでるかわかった。

「い・・・いわないで・・・くださ・・・い」

 くぅー、こんな羽目になるなんてー。

「いいよ。」

「ほ、ほんと!」

「うん、その方が楽しそうだし。」

 碇君はそう言ってわたしに背を向けた。

 へ?

 楽しそうって・・・・・・・何?

 もしかして、なんかたくらんでるの?

 ・・・・・・・それよりもっ!

 ・・・あれ・・・・だれ?

 碇君ってあんな性格だったの?

 わたしにできたのは、ただ呆然と碇君を見送ることだけだった。



◇ ◇ ◇




 けど、驚いた。

 まさか、僕の人生で他人から飛び蹴りをうけることがあるなんて夢にも思わなかった。

 それも『あの』綾波さんからだなんて。

 あの時は本当に気が動転してたな。

 気がついたら家で参考書を開いてたもんなぁ。

 その間の記憶はほとんど残ってないし。

 よくちゃんと帰ってこれたな、って妙なことに感心してみたり。

 でもその後は笑い転げたよ。

 そりゃあ、家の中と外で性格が違うってのもありえない話じゃないけど。

 にしてもあれはギャップがありすぎた。

 学校での綾波さんから『あれ』はとても想像できない。

 あそこまで別の人格を作るのは疲れるだろうな。

 あれ?

 そもそも、なんであんな演技をしなきゃいけないんだ?

 メリットがないじゃないか。

 ・・・知りたいな。

 綾波さんについてもっといろいろなことを知りたくなった。



◇ ◇ ◇




 ・・・はっ。

 ほうけてる場合じゃないや。

 碇君ともう一度話ししとかなきゃ。

 黙っててくれるっていうのはいいんだけど。

 やっぱ「その方が楽しい。」ってのが気にかかるのよねー。



 碇君は教室に戻っていて、何か本を読んでいた。

 わたしが近づくと碇君は本を閉じて軽く微笑んだ。

 それを見てみんな驚いてるみたいだったけど碇君は気にしてないようだった。

「綾波さん。僕に何か用?」

 ・・・コイツ、しらっこいつらして。

 そっちがその気ならこっちもあわせてあげるわよ。

「・・・例の件で話があるんだけど。」

「うーん。今からじゃ時間がないし。放課後もちょっと用があるから・・・5時くらいまで待ってもらえる?」

「・・・かまわないわ。」

「じゃあ、5時に音楽室で。」

「それでいいわ。じゃあ。」

 わたしが席に戻ると女の子達が集まってきた。

「ねえねえ綾波さん、碇君と何の話だったの?」

 やっぱりこうなるのね。

 まあ適当にごまかしとくとしますか。



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