シンジレイの事情
第7話
授業が終わって何やかやと仕事をしているうちに、気づくともう4時半を過ぎていた。
綾波さんとの待ち合わせは5時だったっけ・・・
僕はとりあえずキリのいいところで仕事を終えて、音楽室に行く事にした。
うちの学校には、音楽関係の部活って言うとブラスバンド部くらいしかなくて、ブラスバンド部の練習は講堂とかでやるものだから、この時間の音楽室と言うのはひとけもなく静まり返っている。
と、まだ綾波さんは来てないみたいだな。
まだ時間はあるし・・・
ボーっとしていても仕方ないんで、準備室からチェロを引っ張り出して弾き始めることにした。
音楽の先生と仲がいいおかげで、楽器を自由に使っていいって言われてるのはこういう時には便利かもしれないな。
チェロは僕の趣味のひとつ・・・・・・と言えるのだろうか?
小さいころ・・・僕の生物学的な『父親』に無理やり習わせされて、そのままやめるきっかけもなかったんでずるずると続いてるだけのものだけれど。
もっとも、弾いてる間はなんとなく落ち着くし、暇つぶしにもなるからそれはそれでいいのかもしれない。
まあ、そんなのはどうでもいいことだ。
適当な旋律を弾きながら、これからのことを考えることにした。
つまり、綾波さんがなんで僕に話があるのかって事だけど。
綾波さんのことを他人に教えるつもりはないって言ったのになぁ。
これ以上、何か話すことがあるのかな?
ま、綾波さんと話をすること自体は面白そうだから別にいいんだけど。
◇ ◇ ◇
そして5時。
わたしは音楽室に向かって歩いていた。
あれ?
何か聞こえる。
これは・・・チェロ?
碇君が弾いてるのかしら?
でもなんかいやな感じ・・・
確かに上手いことは上手いと思うんだけど。
個性がないっていうか、なんか機械が弾いてるような気がする。
音楽室に入ると、中では碇君が一人でチェロを弾いてた。
わたしが来たことにも気付いてないみたいだったので声を掛けることにした。
そうしたら碇君はこっちの方を向いて少し笑った。
でもなにかしっくりこない笑い方だった。
「ああ、綾波さん。気付かなかったよ。ごめんね。」
「こっちこそ。じゃましちゃったかな?」
「別に、暇つぶしに弾いてただけだから・・・」
「でも碇君ってチェロ弾けたんだね。」
正直いって意外だった。
でも、わたしがそう言うと、碇君はつまらなそうに肩をすくめた。
「一応ね。」
その言い方があんまりそっけなかったんで、碇君に聞いてみると、
「子供のころからやってたってだけだよ。特にやめる理由もなかったしね。」
という返事だった。
「そういうものなの?」
それだけで続けられるものなのかなぁ?
わたしは好きじゃないことなんてすぐに止めちゃうんだけど・・・
「まあね。それより話があるんでしょ?」
・・・そうだった。
なごんでる場合じゃないんだっけ。
「さっきもいったけど、僕は綾波さんのことをみんなに言う気はないよ。それで何か問題があるの?」
それはいいんだけどね。
「『その方が楽しそう』ってどういうこと?」
そう言うと碇君はちょっと笑って、
「別にたいした意味はないよ。まあ言葉の綾みたいなものだから。]
と言った。
「ホントに?」
それだけなの?
思わず聞き返すと、碇君は心外そうな顔をした。
「信用ないんだなぁ・・・」
「だって、なんかひっかっかるんだもん。」
なにがって、『楽しそう』って言った時の碇君の表情が。
言葉の綾って言うだけにはとても見えなかったから。
「人の弱みに付け込んでどうこうしようとは思わないよ。その点は信じて欲しいんだけど。」
・・・うーん。
その辺は納得できないでもないんだけど。
なーんかひっかかるのよねー。
「信用してもらえた?じゃあ帰らない?だいぶ遅くなったし送っていくよ。」
ここら辺は普段の碇君よねえ。
だから余計にさっきの碇君が気にかかるんだけど・・・
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