シンジレイの事情
第8話
結局、碇君に送ってもらうことになった。
もう遅いのは事実だったし。
正直に言って、もう少し碇君と話してみたいって言うのもあったんだと思う。
ちょっとこれまでのイメージとはかけ離れてたからね。
それで、取り止めのないことを話しながら帰ったんだけど。
碇君はなんというかデキた人間みたいで、わたしが何を言っても穏やかに笑っていた。
でも、わたしはそこが気に入らなかった。
どうしてか碇君の微笑みが作り物めいて見えてしまったから。
なぜだろう?
今までそんなふうに思ったことはなかったのに・・・
◇ ◇ ◇
楽しかったな。
綾波さんと別れてから最初に思ったのはそんなことだった。
別にたいした事を話したわけでもないんだけれど。
それでも話をしてること自体が楽しかった。
それに、人目があるところだとすみやかに表情から口調から全部が変わるんだもんなぁ。
さすがに、なんでそんな面倒なことをするのか聞いてみたら。
綾波さんいわく、
「いまさら碇君の前で演技したってしょうがないし。でもそれをほかの人に見られると困るし。」
ということだった。
なんか、わかるようなわからないような理屈だよな。
まあ、僕としても素のままの綾波さんのほうが話しやすいってのは事実だけど。
そういえば、なんでそんな演技をしてるのかってのを聞かなかったな。
もしかしたらたいして意味のない理由なのかもしれないけど。
さっきまでの綾波さんの様子を思い出して、僕はなんとなくそんなことを思った。
◇ ◇ ◇
家に帰ってからもなんとなく碇君のことを考えてぼーっとしてると、アスカが帰ってきてニヤニヤと笑いながら、
「ねえレイ、今日ご一緒だったのはどこのどちらさま?」
とたずねてきた。
「え、えーっとー。」
・・・言えない。
わたしのことが碇君にばれたなんて絶対に言えない。
アスカは大笑いするに決まってるし。
「レイも水臭いわよねえ。付き合ってる相手がいるなら教えてくれたっていいのに。アタシたちの友情なんてそんなもんだったのね。」
わたしが答えられずにいるとアスカは勝手に話を作り始めた。
「そ、そうじゃなくてー。帰りが遅くなったから送ってもらっただけだもん。」
わたしがそういうとアスカは思いっきり疑わしそうに、
「ふーん、そーなのー。でも、アンタ今まで一度だって誰かに送ってもらったことないでしょうが。」
と言った。
いや、前にも送ってもらったことあるんだけど。
・・・なんてこと言ったら火に油を注ぐようなもんだし。
まあ、それはそれとして何とかごまかさなきゃね。
「たまにはそーいうこともあるってばぁ。わたしだって女の子なんだしぃ。」
「ふーん。まあいいけど。でも誰なのかくらいは教えてよね。」
これくらいなら話しちゃってもいいかな?
「えーと、おんなじクラスの碇君。」
「あー、アイツ。あんなのが趣味なの?」
「だからそうじゃないってばー・・・・・・って知ってるの?」
クラス離れてるのになんでだろ?
「んー。結構有名よ?勉強も運動もそれなりにできて、顔もまあまあで結構優しいって。アタシは好きじゃないけど・・・」
「そうなの?」
もっとも、アスカは人の好き嫌いが結構激しいほうだからそれほど不思議じゃないけど。
「なんていうのかな・・・そう、嘘っぽいのよ。」
「うそっぽい?」
「うん。無意識に演技してるような感じなのよ。同じ演技でもレイのみたいに自覚してるといっそすがすがしいんだけど、無自覚なのは始末におえないわよ。」
「むー、そんなもんなの?」
「うん。なんか、もう死んでるくせに自分が死んでることにも気づかずに動き回ってる感じ。要するに気持ち悪いのよ。」
うーん。
なんというか言いすぎのような気がするけれども。
アスカも碇君の態度は作り物っぽいって感じてたのかあ。
やっぱ気のせいじゃなかったのかなぁ?
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