シンジレイの事情

第10話


 今日も今日とて碇君とおしゃべり。

 なんだか放課後碇君に付き合って遅くまで学校に残り、その後送ってもらう、というのが日課になってしまった。

「けど、綾波さんも暇なんだね。」

 うっさいなあ。わたしだってそう思ってるわよ。

「デートとかしないの?」

「付き合ってる相手なんていないし。」

「ふーん。」

 それを聞いた碇君はちょっと嬉しそうだった。

 ふーんだ、どーせひとり身ですよーだ。

「そーいう碇君はどうなの?結構もてるみたいじゃない。」

「そんなことないと思うけどね。」

「そうなの?」

 いろいろと告白されてるってうわさも聞くんだけどなぁ。

「少なくとも自分でもててるって思ったことはないよ。」

「単に理想が高いだけじゃないの?」

「うーん。理想っていったらやっぱり、物静かでちょっと大人っぽい感じの女の子かなあ。」

 わたしとは正反対ね。

 とか考えてると碇君もそう思ったらしくこんな事を言い出した。

「綾波さんとは正反対だよね。」

「そりゃそうだけどー。面と向かって言う?ふつう。」

 なんか子供っぽくて騒がしい女みたいじゃない。

「だって綾波さんって変で面白いから。」

「へ、へんって・・・。女の子に言うせりふじゃなと思うんだけど。」

「でも変だし。」

「・・・うぅ。」

「自覚はしてるよね?」

「・・・・・・ううぅ。」

「まさか自分が平凡な性格してるとか言わないよね?」

「・・・・・・・・・ううううぅ。」

 そ−だけど。

 確かに自分でも変な性格してるとは思うけど。

 世間一般から見て「普通」とは言い難い性格してるのも知ってるけど。

 だからってそこまでツッコミいれなくても・・・

 わたしが頭を抱えて苦悩してると、その様子があんまり面白かったのか碇君がクスクス笑い出した。

「・・・笑うことはないと思うんだけど。」

 わたしがそう言うと碇君は笑いやめてこう言った。

「ごめん。だってあんまり深刻にしてるから。やっぱり面白いな、綾波さんは。」

 それから、わたしの方を見てにっこりと微笑んだ。

 ・・・ほんものだ。

 そう思った。

 今までみたいな作り物の笑いじゃなくて、心があったかくなるような微笑みだった。

 そしてなぜか知らないけど胸の奥が痛んだ・・・



◇ ◇ ◇




 最近僕は悩んでる。

 深刻って言えば深刻で。

 たいしたことがないって言えばたいしたことがないような。

 そんな悩み。

 一言で言っちゃえば綾波さんのことなんだけどね。

 ここのところ、以前とは比べ物にならないほど綾波さんと話す機会が増えてる。

 それ自体はうれしいことだから文句はないんだけど。

 問題はその先って言うか。

 今のままじゃ「友達」どまりだよなぁって。

 でも僕としてはその先に進みたいわけで。

 何とかしたいとは思うんだけど、どうしたらいいのかさっぱり分からないんだよね。

 今までこういった経験なんてないしなぁ。

 相談する相手もいないし。

 まぁ綾波さんっていまんところフリーみたいだし。

 気長に行くしかないのかなぁ?



◇ ◇ ◇




「・・・・・・ふぅ。」

 あれから碇君のことばかりが頭に浮かぶ。

 ほかのことを考えててもしばらくすると碇君のことを考えてる。

 教室とかでもいつのまにか碇君を目で追ってたりするし。

 これって「恋」ってやつだよねぇ。

 まいったなあ。

 誰かを好きになるつもりなんてなかったのに。

 こんな想いを持つようになるなんて考えたこともなかった。

 わたしの予定では色恋沙汰なんかに目もくれず、エリート街道を突っ走るはずだったのに。

 それに碇君はわたしのこと「変な女」くらいにしか考えてないだろうしなあ。

 やっぱ「いきなりドロップキック」はまずかったよね。

 きっかけがああじゃなければ、もう少しちがった関係になれたのかなあ。



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