まずい。
なにがまずいって、綾波とこうして一緒の部屋に居るって事そのものが。
アスカとあんな話をしたせいなんだろうけれど。
綾波が僕の事を『好き』な可能性。
そんな事をまともに考えるようになってしまって。
変に意識してしまう。
気がつくと視線が綾波を追ってるし。
綾波が僕をどう思ってるのか。
そんな事を読み取ろうとしてる。
なのに話をしようとすると何を言っていいか分からなくなったりして。
はっきりいって変だ。
おかげで綾波から何度かもの問いたげな視線を向けられてるし。
こういう時深く追求してこないから助かるんだけど。
無言のプレッシャーを掛け続けられてるわけで。
それはそれできついものがあったりする。
まったく、どうしちゃったんだろう僕は。
・・・って理由は見当がつくんだけどさ。
綾波は僕の好きだった『あの綾波』だから。
今まではそれが分かる前の、家族みたいな関係っていうのを引きずってたし。
綾波は以前からそういう雰囲気を出してなかったから。
特に意識しないでいられたんだろうな。
照れたりとか恥ずかしがったりなんてことはなかったし。
まぁ、僕が気付かなかっただけで、いろいろと思うところはあったんだろうけどさ。
とにかく。
そういうのがなくなった今になってみると。
綾波と二人っきりで暮らしてるこの状況に何も感じない方がおかしいんだよな。
それどころか、綾波のちょっとしたしぐさとかに胸がどきどきしてる自分がいて。
ちょっとこのままだとヤバイかも・・・
そんなわけで。
次の使徒戦のこととかの相談に綾波を誘わなきゃいけないんだけど。
ちょっとやりにくかったりしてる。
ただでさえ話しづらくなっちゃってるのに、アスカを含めて三人でってことだから。
綾波が機嫌悪くしないかなぁとか余計な心配しちゃうんだよね。
アスカが話を持ち掛けるのはまずいだろうと思ったから僕が引き受けたんだけど。
こうなってみるとちょっと後悔してたり。
とはいえ、綾波が今度も自爆してしまったりなんてのは絶対に避けなきゃいけないわけで。
今回の使徒に関してはきちんと対策を考えておきたいんだよね。
仕方ないか。
「・・・綾波?」
いつものように静かに本を読んでいる綾波に声をかける。
「なに?」
ゆっくりと本を置いてこっちに顔を向けてくれる。
・・・こういうしぐさがいつも通りだから分からないんだよな。
いつか綾波の気持ちを間違えずに読めるようになったりするんだろうか。
「・・・碇君?」
「あ、あぁ、ごめん。実はさ、今度の使徒をどうやって倒すかってことを相談しようと思ってさ。」
早口で言葉を続ける。
「そういう事になるとやっぱりアスカも一緒の方がいいと思うし、今度三人で話しあった方がいいんじゃないかって・・・」
一気に言って綾波の様子をうかがう。
と。
若干、間があったんだけど。
「かまわないわ。」
拍子抜けするくらいあっさりと答えが返ってきた。
特に表情を変えるような事もなく。
「どうしたの?」
「い、いや、別に・・・」
「だけど、邪魔じゃないの?」
「へ?」
「あの人と相談なんでしょ?」
淡々と。
当たり前のように言葉を重ねてくる。
・・・というと、それは、アスカと二人っきりのところに邪魔しちゃ悪いって事?
「ちょ、ちょっと待ってよ。何でそういう事になるのさ?」
「あの人と一緒にいる碇君は楽しそうだもの。」
そ、それはそうなのかもしれないけど。
「別に綾波が思ってるようなのじゃなくて。」
どうしてそんな誤解を・・・
って父さんと一緒にいる綾波見て僕も同じような勘違いしてるじゃないか。
そう考えると無理もないのかとか思いつつ。
「アスカといるのは使徒戦の事とか相談するためで、その・・・」
「・・・そう?べつにどちらでもかまわないけど。」
僕がかまうんだよぉ。
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