そして数日。
ついにあの使徒がやってきた。
前衛に決まった綾波はすでに配置についていて。
バックアップに回ったアスカも同じく。
にもかかわらず、僕はこうして初号機の横でただ待機してるだけなわけで。
しかも、隣には黒服のごつい人がいたりして。
これは前回の命令違反が尾を引いてるんだろうな。
初号機に乗せといて無理やり出撃されたら困るってことか。
さっき、アスカが忠告してくれたのはこういうことなのかなぁ・・・
作戦説明の直後。
「ちょっといい?」
「アスカ?」
ちょいちょい、っと手招きされて。
「念のため言っとくけど、くれぐれも無理やり出撃したりするんじゃないわよ。」
「分かってるってば。」
なんでわざわざ・・・
「ミサトたちがアンタのことでいろいろ言ってんのよ。」
「・・・どういうことさ?」
はっきり言って意外だった。
「アンタ、命令違反とか、ATフィールドのこととかいろいろやっちゃってるでしょ。」
「それはそうだけどさ。」
「何でシンジはあんなふうに勝手に動くんだ、ってね。」
「・・・う。」
「まぁ、酔っ払ったときの愚痴みたいなもんだったけどね。」
肩をすくめながら。
「注意だけはしといたほうがいいわよ。」
「・・・そうだね。」
「アタシはミサトと同居してるからフォローとかも簡単なんだけど、アンタはそうはいかないでしょ?」
というか、そもそもネルフの人たちとは最近ろくに話もしてないんだよな。
ミサトさんともいつのまにか話をしなくなってたし・・・
「そのせいで余計変に見られてる部分もあるし。」
・・・そこら辺のことなんて全然気にしてなかったけど。
「これ以上無茶しないほうがいいってことか・・・」
というやり取りがあったわけで。
周りの目とか、正直気にしなくなってた。
アスカとかと付き合ってるうちにそこら辺無頓着になってったんだけど。
ネルフでの立場とかはそれなりに考えといたほうが良かったのかな。
とりあえずエヴァに乗って使徒を倒してれば文句はないだろうって考えはまずかったか。
・・・もっとも、いまさら遅い気もするけど。
そうこうしてるうちに戦闘がはじまった。
けど、はっきりいって状況は思わしくない。
使徒の攻撃を受けたら終わりだっていうのが問題なんだよな。
二人ともそれが分かってるから必死で攻撃を回避してるんだけど。
それだけで手一杯になりかかってる。
攻撃する余裕なんてほとんどないし。
したところでろくに効いてない。
このままじゃいずれ・・・
「ちょ、ファースト、何やって!?」
零号機が立ち止まって攻撃を受け止める体勢になってた。
そして。
「・・・くっ。」
使徒の攻撃が零号機に命中し。
『零号機の生体部品が侵食されています!』
『物理的融合を果たそうというのか?』
状況報告と。
『くぅ・・・はぁ・・・・・・』
切れ切れに聞こえる綾波の苦しげな声。
『侵食率が5%を越えました!』
なんでだ。
何で出撃命令が出ない。
アスカ一人じゃ使徒を抑えきれないんだ。
「ミサトさん!僕を出撃させてください!」
『シンジ君・・・そうね。司令、初号機の凍結処分の解除を!』
『・・・初号機まで侵食の危険にさらすわけにはいかん。』
な!?
『司令、それでは・・・』
『そう・・・なのね・・・』
ポツリと綾波のつぶやき。
まさか?
『ファーストはやまってんじゃないわよ!!』
アスカも同じことを考えたらしい。
『ア、アスカ、どうしたのよ?』
『コイツ、このまま自爆して使徒を倒そうとしてんのよ!』
『・・・なっ!』
一気に静まり返る発令所。
『司令!!』
いち早く立ち直ったミサトさんがあの人に詰め寄ってるみたいだった。
だけど。
『・・・初号機の出撃は許可できない。』
聞こえてきたのは何の感情も見せない静かな声だった。
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