「碇くんっ・・・」
「シンジっ。」
司令室を出ると。
綾波とアスカが待っててくれたわけで。
あれ?
「よくこんなとこまで来られたね。」
この辺って立ち入り禁止だったような気がしたけど。
いや、綾波には関係ないのかな。
「何のんきなこと言ってんのよ。さすがにやばいんじゃ・・・」
「登録抹消だってさ。」
肩をすくめながらそんな風に答える。
「って、むちゃくちゃ大事じゃない。何でそんなお気楽にしてんのよ。」
綾波も顔つきが変わってるし。
「だってどうしようもないしさ?いっそ自分を見つめなおす旅にでも出ようかって。」
「・・・はぁ?」
「そんなあきれたような顔しないでほしいんだけど。ただの冗談なんだし。」
どの道、旅行するお金なんてないしね。
「冗談にしてはタチが悪いっての。」
「でもさ、下手したら第三新東京市を出なきゃいけないんだし・・・ってその辺どうなってるんですか?」
傍らで僕たちのやり取りを黙ってみてる黒服の一人に聞いてみる。
「本部への立ち入りは禁止される。・・・が、それ以外のことは君の自由だ。」
と、感情のこもってないお答えが帰ってきたんだけど。
あれ?
「じゃあ、エヴァに乗れない以外は今までどおりにしてていいんですか?」
「我々は特に命令を受けていない。」
むぅ。
前回登録抹消されたときって第三新東京市からも追い出されたのになぁ。
だから何とかしてカヲル君と会う手はずをつけなきゃって悩んでたのに。
最悪、アスカに説得を任せなきゃいけないとか。
そんなことまで考えてたんだけどね。
ここにいられるなら話はずいぶん楽になる。
けど、あの馬鹿が無意味に僕に自由をくれるとも思えないし。
どうせ何か裏があるんだろうけど。
まあいい。
あいつの事は気にしないことにしたんだ。
それよりはどうやってカヲル君を説得するかなんだけど。
って言っても、結局直球勝負しか思いつかないんだよなぁ。
それから数日。
不思議なほどに平穏な日々が続いていた。
ネルフのほうは何の干渉もしてこないし。
後はカヲル君が来るのを待てばいいかと思ってたんだけど。
ちょっとまずいことが。
何って綾波のことなんだけど。
あれ以来、今まで以上に僕のことを意識してるみたいで。
視線が合うとほほを染めたり。
手とかが触れると妙にはじらったり。
そういうしぐさの一つ一つが、こう、なんというか。
かわいらしすぎて困る。
このままだと。
抱きしめたりとか。
キスしたりとか。
その先とか。
そういうことをしたくなってしまいそうで。
いや、すでにそんなことばかり考えてる自分がひどく嫌で。
なのに、僕がそれを望んだら綾波は拒むんだろうかとか考えてる自分が。
さらに情けなくて。
一日、ちょっと頭を冷やすっていうか、冷静に考え直そうと思ってちょっと散歩してみることにした。
部屋にこもってるとろくな考えにならないっていうのは今までの経験でよく分かってるし。
で、まぁ、ふらふらとうろつきつついろいろ考えてみたんだけれど。
このまま一緒に住んでたら状況は変わらないんだよな。
だからといって綾波と離れたくもないし。
結局、僕が自制するしかないんだろうけど。
いまいち自分の理性を信用できないんだよな・・・
と。
「何を悩んでいるんだい?」
背中からそんな声がかけられて。
それは妙に聞き覚えのある声で。
慌てて振り返った僕の前に。
銀髪の少年が。
「久しぶりだね?シンジ君。」
そんな風に笑いかけていた。
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