「・・・カヲル・・・君。」
 そんな言葉をどうにかしぼり出せたんだけれど。
 何がなんだかさっぱりわからなくて。
 だけど。
『久しぶり』っていうのは。
 やっぱりそういう意味なのか?
 カヲル君も・・・僕たちと『同じ』なのか?
「どうしたんだい?考え込んでしまって。」
 以前と変わらない穏やかな口調でカヲル君が問い掛けてくる。
「どうして・・・ここに・・・」
「シンジ君に会いに来たんだよ。決まっているだろう?」
「そ、そうじゃなくてさ。」
「分かっているよ。けれど、シンジ君も気づいているんだろう?」
「カヲル君が僕と『同じ』だってことはね。けど、どうして?」
「僕にもよく分からないんだよ」
 そう言って肩をすくめる。
「あの後・・・気づいたらこの世界にいたんでね。」
「僕と・・・同じなんだ・・・」
「それじゃあシンジ君にも理由はわからないのかい?」
「サードインパクトが起きて・・・みんな溶け合っちゃって・・・僕はアスカと二人取り残されて・・・それで・・・」
「そうか・・・サードインパクトは起きてしまったんだね。」
 しばらく考え込んで。
「やはり、やり直せということなのかな?」
 独り言のようにつぶやいた。
「・・・カヲル君?」
「しかし、シンジ君は初号機から降ろされている・・・どうしたらいいのかな?」
「何を・・・言ってるのさ?」
「僕をどうやって殺してもらうかってことさ。」
 カヲル君は穏やかにそう答えた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでそうなるのさ?」
 こうしてまた会えたのに。
「前にもいっただろう?僕が死ななければ人類が滅びる。それは変わらないんだよ。」
「そう決まったわけじゃ・・・」
「決まってるのさ。それはどうしようもないことなんだよ。」
 静かに言葉を重ねる。
「じゃあ、こうして僕と話してるのは?ずっと今みたいにやってくことはできないの?」
「それは無理だよ。」
「どうしてさ。」
「僕たちは別種の生き物なんだよ。」
 諭すように言うカヲル君。
「それが何だって言うのさ。」
「シンジ君は気にしないでいてくれるけどね。」
 軽く苦笑いする。
「ほかの人たちにとって僕は使徒・・・つまり敵でしかないんだよ。」
「そんなこと・・・」
「ないと言えるかい?」
 確かに。
 ミサトさんもカヲル君を殺したことに対して特に気にしてなかったような・・・
 それはやっぱりカヲル君が使徒だからで。
「でもっ。」
「僕の周囲にいた人間たちは、僕のことを使徒としてしか見なかったよ。僕を恐れ、その一方で利用することだけを考えていた。」
「・・・」
「まぁ、僕も彼らを利用させてもらったわけだからお互い様だけれどね。」
「カヲル・・・君・・・」
 カヲル君の口調は本当に淡々としていて。
 単に当たり前のことを言っているだけっていうのがよく分かった。
「でも、カヲル君が使徒だなんて言わなきゃ分からないんだし、このまま隠し通したら・・・」
「それも無理だよ。」
「どうしてさ?」
「彼らにとって僕は死ぬ必要があるのさ。そうしなくては自分たちの望みがかなわないからね。」
「望み?」
「ヒトの補完。行き詰まってしまった人類を一つの固体として再構築したいのさ。」
「・・・それってサードインパクトのこと?」
「そうだよ。その場に僕がいては彼らの思惑とはずれてきてしまうのでね。なんとしても殺そうとするはずだよ。」
 そう言って肩をすくめる。
「それにね、ほかの使徒が滅びてしまった以上、僕も選ばなくてはいけない。今こうしていられるのは猶予期間のようなものなのさ。」
「そんな・・・」
「分かってもらえたかい?」
 結局、僕は何も言えなくて。
 ゆっくりと歩き去っていくカヲル君をただ見送ることしかできなかった。


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