とはいえ。
どうやって説得したらいいかなんて分からないままで。
そもそも、ネルフに立ち入りできない以上、会うにしても綾波やアスカに伝言を頼まなきゃいけないし。
しかも、僕が何も関与できない間にすべてが終わっちゃう可能性もあるわけで。
正直、考えが甘かったって思う。
こんなことになるなんて予想もしなかった。
まぁ、綾波を助けるためにしたことだから後悔はしてないんだけど。
それでもなぁ・・・
そんな風に悶々として、ろくに寝られもしなかった翌朝。
朝から実験だっていう綾波を見送って。
とぼとぼと学校に向かうと。
なんか道の途中で手を振ってる人がいて・・・
って加持さん?
何でこんなところにいるんだ?
慌てて駆け寄ると。
「よ、シンジ君、案外元気そうだな。」
なんてのんきな挨拶をしてくれたわけで。
一瞬ひざが砕けそうになりつつ。
「『元気そうだな』じゃないですよ・・・やばい状況とかいうのはどうなったんですか?」
それをこらえて聞いてみると。
「まぁ、それなりにね。それに白昼堂々と動いてれば逆に安心なものさ。」
穏やかにそんなお答えをくれた。
「・・・そんなもんなんですか。」
「おいおい、露骨にあきれたって表情だな。」
「いや、その・・・」
「実を言えばそれなりの根回しはしてきてるのさ。命を狙われない程度のね。」
「はぁ・・・」
なんか今ひとつ信じられない。
「ま、いいけどな。それよりこんなとこで立ち話もなんだ。少し場所を移さないか?」
「・・・ですね。」
たしかに周りには登校中の生徒が何人もいるわけで。
ゆっくり話をする雰囲気とは程遠い。
で、加持さんの運転する車に乗り込んだわけなんだけど。
「どうしてわざわざ僕に会いに来たんですか?」
口で言ってるほど安全じゃないはずだ。
「表向きはネルフを放逐されたサードチルドレンへのコンタクト、かな。」
「はぁ?」
「あくまで建前だよ。ただ、一応今の俺は内閣調査室の人間として動いてるんでね。」
「内閣って、なんでまた・・・」
「もともと内調とネルフの二股かけてたんだよ、俺は。」
なんか初耳なんだけど。
ふと思いついたことがあった。
「もしかして『アルバイト』ってそういうことなんですか?」
「そんなとこだ。」
軽くうなづいて。
「だから、俺とこうしてるってことはシンジ君にとってあまりいいことじゃないんだがな。」
「いまさらでしょう、それは?」
そんなことを気にするくらいなら、そもそも加持さんに話を持ちかけたりしてない。
「まぁな。で、本題なんだが、シンジ君に頼まれてた件があるだろう?」
「ええ。」
「あれなんだが、かなり状況がまずくなっててね。要するに、日本政府のネルフに対する不信感っていうのはかなりのものがあるのさ。」
「そうなん・・・ですか。」
「好き勝手なことをやってる得体の知れない組織、これが大方の認識だな。」
・・・それは、そうかも。
「今は使徒の脅威があるからいいけどな。」
ネルフじゃないと使徒が倒せないからか。
でも使徒を全部倒しちゃったら・・・
全部?
カヲル君はどうするのさ?
「ん?シンジ君、どうかしたか?」
「なんでも・・・」
待てよ?
加持さんに相談してみるのも手かもしれない。
「実は・・・」
「なるほどな・・・」
僕の話を聞いた加持さんはしばらく考え込んで。
「しかしだ、何で彼が生きていることが人類の滅亡につながるんだ?」
「それは僕にも・・・でも、カヲル君はどちらかを選ばなきゃいけないと思ってるみたいで。」
「なら選べなくしてしまえばどうだ?」
突然、加持さんは意味ありげな笑いを浮かべた。
「どういうことですか?」
「いや、もともとこれを頼みに来たんだが・・・そもそも、アダムがなければサードインパクトも起こしようがないだろう?」
「それは・・・そうかもしれませんけど。」
「そうすればゼーレもどうしもようもなくなる。一石二鳥ってやつだな。」
確かに。
「やります。」
カヲル君を助けられるなら。
「そうか・・・だが、アダムはセントラルドグマの奥底だ。やるなら初号機で強行突破するしかないんだが、今のシンジ君がやるのは難しいな。」
「ネルフへの立ち入りは禁じられてますからね・・・」
今の僕は初号機にすら乗れない。
「アスカに頼むしかないだろうが・・・」
確かにそれしかないんだけど。
「でも、そんなことをしたらアスカはもうネルフにはいられませんよね。」
「それどころじゃない。ネルフとゼーレの両方にケンカを売るようなものだからな・・・しばらくは身を隠す必要があるし、別人として生きていかなくてはいけないかもな。」
淡々と言う口調が。
加持さんの予想が過剰なものじゃないってことを感じさせた。
そこまで・・・アスカにそこまでさせて。
それで僕はどうする?
ただ見てるだけか?
そんなのは、だめだ。
「いえ・・・やっぱり僕がやります。」
「だが、シンジ君には・・・」
「なんとかします。」
「自己犠牲かい?君は『前』での出来事が自分のせいだと思いすぎてるんじゃないか?」
ふと、厳しい顔になって聞いてくる。
「それもあるかもしれませんね・・・でも、それだけじゃありません。」
多分これは僕がやらなきゃいけないことで。
それを人任せにはできないんだと思う。
だから軽く笑ってこう言った。
「後のことはよろしくお願いしますね?」
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