ターミナルドグマの底。
 なんだか気に入らない場所だった。
 どこか『あの世界』を思い起こさせる。
 赤くて、なんか死んでしまってるような。
 けど。
 とにかく、僕たちはまたここに来た。
 そして、奥のほうでは白い巨人が磔になってる。
 あの巨人が多分アダムなんだろうな。
 あれさえ殲滅すればいいのか・・・
 僕のそんな決意をよそに、カヲル君は穏やかに話し掛けてくる。
「ようやく、着いたね。」
「・・・そうだね。」
「さぁ、僕を殺してくれ。」
 ゆっくりと振り向いて、穏やかに微笑む。
 ・・・やっぱり分からない。
「なんで。」
「シンジ君?」
「なんでそんな風に笑えるのさ?」
「どうしたんだい、急に?」
「あの時も!今も!!何で笑いながらそんな事が言えるのさ?」
「前も言ったじゃないか。僕は選ばなければいけない、と。」
 微笑を浮かべたままで。
「だから選んだ。それだけのことなんだよ。」
「・・・それだけだなんて。」
 僕がそう言うとカヲル君は少し怪訝そうな表情を作った。
「シンジ君はそれに納得してくれたんじゃなかったのかい?だからここに来てくれたんだろう?」
「納得なんてしてない。」
「僕を殺すつもりがないならどうしてここに?」
「アレを殲滅したかったから。」
 アダムを指差す。
「アダムがいなければサードインパクトはどうやっても起こらない。そうすればカヲル君が選ぶ必要もないだろ?」
 カヲル君は軽く目を見開いた。
「・・・そう、そういうことか。すごいね、リリンというものは・・・僕たちにはどうやってもそういう発想は浮かばないよ・・・」
「だから・・・そこをどいて、カヲル君。」
 けど、カヲル君から返ってきたのは予想外の答えだった。
「残念だけど、アレはアダムじゃないよ。」
「なっ・・・」
 そんな。
 加持さんが間違ってたっていうのか?
 でも、だったらアダムはどこにいるんだろう。
 どうやって探せば・・・
 って考えてる僕を、カヲル君の言葉が一気に現実に引き戻した。
「それにね、アレがアダムだとしたら、僕はシンジ君を止めなきゃいけなかっただろうね。」
「なんでさ!?」
「僕たちはそういう生き物なのさ・・・」
 どこまでも変わらないカヲル君の態度に。
 一瞬あきらめそうになったんだけど。
 ってあれ?
 なんか向こうですごい物音が・・・
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ・・・アスカ?
 通信機からアスカの声が聞こえる。
「すごいな・・・ここに入ってこられるなんて。」
 感心したようなカヲル君の声。
 ここってカヲル君がATフィールドで結界張ってたんじゃ・・・
 それを破ってきたのか?
 と。
「ったく、ムダに硬いATフィールド張ってんじゃないっての。」
 弐号機と零号機がゆっくりと歩いてきた。
「綾波・・・アスカ・・・」
 無意識のつぶやきに。
 ひどく剣呑な口調で答えが返ってきた。
「加持さんから聞いたわよ。アンタねぇ、無茶にもほどがあるわよ?」
「・・・碇君は勝手すぎるわ。」
 うぅ、綾波まで・・・
「君たちはどうしてここに?」
 カヲル君が穏やかに問い掛ける。
「あなたを殲滅しろと命令が出たわ。」
「そーいうこと・・・けど、空飛んでるところを見ると、使徒だっていうのも信じられるわね、確かに。」
「なら、僕を殺してくれるかい?」
「悪いけどアンタのことはシンジに任せてるのよね。」
「綾波さんは?」
「碇君がそれを望んでないもの。」
「・・・困ったな。」
「アンタもねぇ・・・ここですっぱり死ぬのをあきらめるって選択肢はないの?」
 あきれたような口調。
「シンジ君にも言ったけどね。僕は・・・僕たちはそういう生き物なのさ。」
「使徒の習性ってのもわかんないもんねぇ・・・」
「習性か・・・むしろ本能といったほうが正確かもしれないね。」
「どっちでもいいんだけどね。本能に流されてるんじゃサル並じゃない?」
 さ、サルって・・・
 けど、カヲル君のつぼにははまったらしく。
 くすくすと笑い始めた。
「なるほど?それにも一理あるねぇ。」
「それにね、シンジは何があってもコイツを殺したりはしないでしょ?」
「うん。カヲル君を二度も殺すなんて絶対に嫌だよ・・・」
「だから少しは努力してみたら?」
「けど、どうしてシンジ君はそこまで僕に生きていてほしいんだい?」
 ・・・もしかしてカヲル君ってそこら辺が全然分かってなかったのか?
「カヲル君、そんなことに理由なんてないんだ・・・ただ、カヲル君と一緒に生きていきたいだけなんだよ。」
「・・・誰かから求められることは生きている意味になるわ。」
 綾波。
「そうか・・・それだけでいいんだね・・・」
 なにか、妙にさっぱりとした表情で。
 カヲル君はそうつぶやいた。


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